おもいびと ◆恋慕1 陸の挑発に乗せられて喰らい付いたおれは、背中を包む両腕に抱きしめられて我に返った。 自分でも驚いて、慌てて陸から身体を離して。 流されてしまいそうになる自分を叱咤する。 違う! 違う! 違う!! おれはこんな事がしたいんじゃない! おれたちの絆はこんな即物的な欲だけの関係に支配されている訳じゃない! 色々と感情が昂りすぎて、息が上がっている。 胸が、速すぎる鼓動で痛い。 おれは、陸の胸に項垂れて、どうしようもない自身の業を呪った。 本当は、おれは陸の傍にいない方がいい。 陸を傷付けて、取り返しがつかなくなる前に、おれは完全に姿を消すはずだった。 なのに、おれ自身がこんなにも陸を求めていて。 口先だけで取り繕って、その裏で道理を尊重しようと足掻いても。 おれには、陸を離さない決意が出来上がっていた。 それは、今に始まった事ではなくて、幼い頃からのおれたちの不文律だった。 「海斗」 陸の声が震えている。 本当は、ここには一大決心してやってきたに違いない。 おれに逢いたくて。 おれに触れたくて。 ――可愛い 可愛いよ、陸 おれは、おまえが可愛くて 可愛くて 愛しくて仕方がない [次へ#] [戻る] |