おもいびと
◇蓮の棘11
驚いたままおれを見つめて。
濡れたおれを拭く手を止めた海斗は、その場に立ち尽くした。
たった今、唇に触れた体温が優しくて。
柔らかくて滑らかな肌が恋しくて。
おれは、どうしてもあふれてきてしまう涙が止められない。
「海斗」
優しい顔が、辛そうに表情を歪める。
「海斗……」
甘えるおれを、抱きしめたい手が戸惑っている。
分かっている。
ちゃんと、分かってるよ。
海斗。
「──寒いよ、海斗」
裸のままのおれが熱をねだると。
悲しそうに憐れむ視線が、すぐに慈愛の色を帯びておれを包んだ。
ガキっぽいやり方だって自覚してる。
だけど、こうでもしないと海斗はおれを傍に寄せてくれない。
おれは。
海斗がすぐに離れて行ってしまいそうで怖い。
だから、いつまでも子供のままの振りをしている。
なのに。
子供じゃない欲望がおれの中を満たしていて。
そんな矛盾を抱えた在り方に、おれ自身が辛くなっていた。
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