高校バニラボーイズ【謹賀新年】
高校バニラボーイズ【謹賀新年】4
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ほぼ盲目的にシュウヤを愛して。
無垢な感情を向けてくるリョウマ。
シュウヤを疑う事無く信頼を寄せて全てを許して。
それが自然体であるリョウマなら、本当の快楽を掴めるかもしれない。
シュウヤは少し前からそう感じていた。
男子の身体と精神を持っていながら、思考は乙女なリョウマ。
女の子になりたいわけじゃないのは分かっている。
でも、お嫁さんに憧れるリョウマの夢をひとつでも叶えてあげたいと思うのは、彼氏として当然の願いだ。
自分はまだ経験したことがないけれど、リョウマならきっと、自分が与えることが出来ると確信していた。
「リョウマ。怒らないで聞いてくれる?」
甘い愛撫と囁きで全身を蕩けさせておきながら、『怒らないで』って何だろう……とリョウマはぼんやりと考えた。
「リョウマにもっと気持ち良くなって欲しいんだ。そのために、協力して」
「シュウヤ?」
「ちょっとした物を使いたいんだけど……いい?」
相変らず優しい穏やかな表情で、今までとは明らかに違う事を提案してくる。
リョウマはシュウヤが意図するところが掴めない。
シュウヤはそんなリョウマの戸惑いを汲んで笑顔で応えた。
「痛い事とか汚い事とかじゃないから。あのね……」
シュウヤはヘッドボードキャビンの引き出しから、片側面に波打つような形状を有する細長いものを取り出してリョウマに見せた。
淡いピンク色のそれは、リョウマにも直感で性具だと分かる。
けれど、挿入するための性具は男性器を模しているものだと思っていた。
予想していた形とは違って、リョウマは抵抗や不安よりも疑問を抱いた。
「そろそろかな……って思うんだ。次の段階」
「これ、なに?」
「前立腺って知ってる?」
「聞いた事だけ」
いくら純情一途なリョウマでも、男子たる欲や興味はちゃんとあって。
それなりにリサーチ済みだ。
そこは男性にとっての深い快感を引き出す場所だと認識している。
それは、女性の快感に匹敵して。
射精を伴わず何度でも繰り返す陶酔だと記録されていた。
そんなことがあるのかと疑ってかかっていたけれど、もしかしたらシュウヤはそんな快楽を突き詰めるつもりでいるのか……とリョウマは察した。
「そこでいけるように、今までも頑張ってきたんだけどね」
シュウヤはリョウマを抱くたびに、一点を集中的に、やんわりと圧すような刺激を与えて、痛みにも似た疼きを与えてきた。
凄く気持ちいいという感じ方ではなくて、チリチリと疼くような感覚と、性器の付け根から何かが膨らんで、中から圧迫されて噴き出してきそうな感覚があって。
やがておとずれる解放感で、射精している事を自覚するような。
快感と言えるかどうか、いささか曖昧な体感だった。
直接性器への刺激がなくとも、挿入された刺激だけで達する事が出来るようになったリョウマは、シュウヤから更に愛されて可愛がられてきた。
シュウヤの行為によって快楽を掴む自分を、シュウヤは愛しいと感じてくれている。
もし、さらに強い反応を手にしたら、シュウヤはもっと自分を愛してくれるのだろうか。
リョウマは、そんな視点でシュウヤからの申し出を受け入れたい気持ちになっていた。
「これで……いくの?」
「達けたらね」
「シュウヤは?」
「おれ?」
「シュウヤは気持ち良くないでしょ?おれだけ……」
リョウマが言いかけると、シュウヤはそっとキスを落として続く言葉を塞いだ。
リョウマが言わんとしている事は分かる。
気持ち良く昂められるのは自分だけで。
シュウヤはただ自分に奉仕するだけになるんじゃないか……と。
セックスはふたりで行う営みだと思っているから、たぶん一方的になるであろう行為には、シュウヤの事を思うと抵抗がある。
きっとリョウマはそんな風に感じているに違いない……とシュウヤは察して艶然と笑顔を向けた。
「別に……これだけで君をどうこうするわけじゃないよ」
やんわりと否定するシュウヤの微笑みに、リョウマは不覚にも見とれてしまう。
「これが挿入るだけで、他はいつも通りだよ。……まあ、あとでおれが挿入る予定だけど」
迫られて、蠱惑的に微笑まれて、リョウマはカアァァァァッッ!!
……っと赤くなった。
「怖い?」
「自分が……どうなってしまうか分からないから怖い。……だけど」
躊躇いながらもシュウヤから視線を外さないリョウマはシュウヤを満足させる。
そして、期待しながら、黙って次の言葉を待った。
「──興味もある」
はにかみながら、本音を聞かせてくれるリョウマ。
シュウヤは口元をほころばせて、赤いままのリョウマにキスを贈った。
唇を離して、額を突き合わせて。
鼻先を擦り合わせながら互いに見つめ合う。
未知の官能領域への挑戦は、ふたりを期待で昂揚させた。
「おれたち、まだ十代だからね。興味ってだけで、大概の事はやれちゃうんだよ」
再び合わせられた、深く互いを探るようなキスは、たちまちふたりの理性を浚って。
掻き抱くように互いに身を寄せて、熱がこもる身体を重ね合った。
欲しくて、たまらなくて、焦れた身体がシュウヤに抱きすくめられて。
挿入時にはいささかの不安を感じたものも、窄まろうとする円環をくぐると、後は自然に中に呑み込まれるように潜り込んでいった。
欲しかったシュウヤ自身は、今はまだおあずけなんだな……と思い出して。
リョウマは体内の感覚に集中した。
圧迫されることから誘発される、引き攣るような疼きがあって。
果たしてそれが、新しい感覚を呼ぶ事に繋がるのか。
リョウマはまだ半信半疑で。
それでも、いつもにも増して情熱的なシュウヤの愛撫に酔わされて。
夢見心地にさせられていた。
着衣を全て脱ぎ去ったふたりの胸には、首から下がった揃いのペンダントが、室内の淡い光を反射していた。
実は、翼は一対で。
ふたつを合わせると、デザインの中心にハートマークが現れるペアアクセサリーだったが、全くそれとは分からない男性的なデザインだったため、リョウマは気付いていなかった。
ふとした瞬間に、自分の胸元でペンダントヘッドが重なって。
ふたつが示したその形に気付いて。
リョウマはその瞬間、全身が熱くなったのを自覚した。
すぐには信じられなかった。
でも、小さなハートはリョウマの胸で輝いていて。
こんなふうに、気持ちを形にしてくれるシュウヤの在り方が嬉しい。
急に緊張を見せたリョウマを気にしながら、シュウヤは思い遣る視線を注いで、意識を奪うような熱いキスをくれる。
そのキスは、幸せなリョウマを、更に甘酸っぱい歓びで満たしてくれた。
シュウヤは、ゆっくりとリョウマの性感を高めるように導く。
そっと肌を滑る手がくすぐったい。
以前はこんなふうに感じる事なんてなかったのに、シュウヤとの関係を重ねるごとに、だんだん敏感になってきて。
触れられる肌に、ざわざわとした感覚を覚えて。
それを快感として受け入れてからは、リョウマはこんなふうにシュウヤに触れられることが好きになった。
キスをもらいながら、全身を撫でられるだけで、粟立つ肌と共に胸や中心の飾りまでも硬く収縮して。
痛みを感じるほど敏感になっているそこをさらに刺激されると、全身がわななく程の反応を示してしまう。
不意に、胸の上にチクリと刺すような痛みを覚えた。
シュウヤはもう、キスの跡をつけることを遠慮しない。
自分のものだと堂々と主張して、行為の時は何かの約束事でもあるかのように、必ず左の鎖骨の上に赤い印を残していた。
キュッと吸われて、痛みを伴う刻印を遺されるたびに、リョウマは悦びに酔わされた。
温かい唇の感触に緊張を弛めて、シュウヤのなすがままだった身体は、深い愉悦に落ちる。
それは、シュウヤの独占欲の表れだということをリョウマが知っていたからだ。
身体がわななくたびに、リョウマの窄まりが収縮する。
それによって、独特の形状をした性具が奥に呑み込まれるように押し込まれて。
秘密の凝りがやんわりと圧迫される。
それは、あまりにも微かで、捕まえるのが少しだけ困難な疼きを与えて、自分の中の性具の存在を余計に意識させた。
繰り返されるキスと愛撫によって、ピクンと緊張が走るたびに。
奥が蕩けそうに疼く。
シュウヤ自身を受け入れて与えられる興奮や快感とは、違う何かに圧し包まれるような感覚があって。
じわじわと追い詰められていくような気分にさせられる。
やがて、ビリビリと痺れる射精を思わせる寂寞感が、骨盤の奥から広がってきた。
「リョウマ」
切迫して緊張を高めたリョウマの様子に気付いて。
それまで続いていたキスが止まる。
シュウヤは少しだけ身体を離してリョウマを見下ろした。
「まだ、いっちゃだめだよ。目を閉じて。達くことは考えないで」
難しい課題だ……とリョウマは感じる。
この状態でいけないなんて、焦らしもいいところで。
焦らされるのは切な過ぎて、あまり好きじゃない。
そんな事を考えながら難しい表情を見せて目を閉じたリョウマに、シュウヤはそっと口づけを贈った。
「ごめんねリョウマ。でも、君はちゃんと掴めると思うから……頑張って欲しいんだ」
――シュウヤの甘い誘惑にはかなわない
リョウマは黙ってうなずいた。
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