高校バニラボーイズ【謹賀新年】
高校バニラボーイズ【謹賀新年】3
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変な音がした。
シュウヤは何があったのかと気になって、ドアをあけて廊下を見渡して。
階段を上ってくるリョウマを見つけて、少しだけいつもと違う様子が気になって声を掛けた。
「大丈夫?」
「うん」
何やら難しい表情のリョウマは、いつも通りにシュウヤの部屋にやってきて。
シュウヤの目の前を通り過ぎて、いつも通りの場所に腰を下ろす。
ベッドを背にして、床に腰を下ろしてから、いつも通りではないことに気付いた。
自分が風呂に入っている間に、既に敷いてあると期待していた自分専用の布団がない。
てっきり、それも任せていいのかな……と思っていたリョウマは、改めて腰を上げてドアに向かった。
「どうしたの?」
「あ、布団敷こうかな……って」
「────………………」
いつも通りにしたいはずのリョウマのその一言で、室内に佇んでいたシュウヤがピクリと表情を強張らせた。
滅多に見ることが出来ない反応に、リョウマは狼狽した。
「…………え?」
「いらないでしょ?」
蠱惑的な笑みを向けられて思わず頷く。
「──あ……うん」
シュウヤの言動に、なかなか一貫性を見出せなくてリョウマは戸惑っていた。
いつもとは違う。
こんなに含みのある言動をするシュウヤなんて初めてで。
駆け引きめいた言葉のやりとりがなんとなく辛い。
…………何でこんなに緊張してんのかな、おれ
リョウマは自分自身の反応にも困っていた。
何だかいろいろ考えて。
余計な事を考えすぎて訳が分からなくなったクチなんだろうな……と、シュウヤは予想していた。
さっきは『我慢している』と、リョウマは言った。
リョウマはリョウマなりに考えて、献身的に尽くしたり、我慢したり。
何よりもシュウヤの事を優先して行動している。
きっと自分を思い遣るあまり、リョウマ自身の希望とか欲みたいなものは、抑圧されているんだろうな……と、シュウヤは察して。
リョウマの献身が本当にいじらしいと思えた。
子鴨のように疑う事を知らない無垢な存在。
上辺はクールに見えても、水面下では必死に足掻いていて。
いつだって懸命にシュウヤを追ってくる。
…………可愛い
シュウヤは思わず口許をほころばせた。
別々に寝ようとするから、つい素知らぬ顔で素っ気なくしちゃったけど。
…………もう限界。
シュウヤはそっと手を伸ばして、リョウマをベッドに招き入れた。
二年越しで愛したい。
ずっと好きだから。
君が大好きだから。
だから、たくさん教えてあげる。
気持ちいい事、教えてあげる。
ベッドに押し込まれ、そっと囁きを贈られて、やんわりと包まれるように抱かれたリョウマは夢心地だった。
「たくさん啼いて。たくさんいかせてあげるから」
固唾を呑むリョウマは、真っ赤に顔を紅潮させてシュウヤの誘惑に圧されていた。
シュウヤの在り方は最強だ。
こんなに蠱惑的な声と表情で自分を骨抜きにする。
迫られて、組み伏せられて、キスと言葉を交互にくれるから、自分は身動きひとつとれなくなる。
「シュウヤ……」
「料理、美味しかったよ」
唇をそっと合わせて、くすぐるように撫でるシュウヤの言葉は、リョウマにとっては嬉しすぎて。
理由の分からない戦慄を覚えた。
「毎日美味しかった。嬉しかった。……リョウマ」
「──あ」
キスが滑り落ちて、襟元をキュッと吸い上げる。
甘い痛みが全身を支配して、リョウマの幼い官能をやんわりと押し上げた。
「リョウマ」
肌をそっと撫でる指先が優しい。
「──リョウマ」
耳元で囁く言葉が熱い。
リョウマのそれまでの葛藤や戸惑いといった感情が、シュウヤのキスで全てが浄化されてゆくのを感じる。
たったこれだけの事で、幸せにさせられてしまう自分が愛しい。
こんなにも、自分はシュウヤの事が好きだったんだと知って、自分の揺らがない一途さに安心した。
何があっても自分の気持ちを貫き通す強さが欲しかった。
少なくとも今の自分は、どんな感情よりも、シュウヤを好きでいられる優しい気持ちが勝っていると確信出来た。
リョウマの全身から、スゥッと緊張が消えた。
与える愛撫に素直に反応してくる様は、本人の自覚していないところで艶然とシュウヤを誘う。
好きで、好きで、大好きでたまらない相手と重ねる熱は。
安心と、相反する激情を生んで、胸を掻き毟りたくなるほどの疼きを与えられる。
こんな感情を今まで知らなかった。
髪に、頬に、胸元に。
触れる唇から、愛しさが次々に湧いてきて止められない。
このまま時が止まってしまえばいい。
永遠にこのままで。
抱き合って。
キスをして。
焦れったい熱に吐息を揺らして。
重なった肌から全身が溶け合って、ひとつになれたらいいのに。
そんな夢見るような事を祈っていながら。
正直な欲望は頭をもたげて、違う熱を宿してしまう。
どうあっても、現実はこれなんだな……と、シュウヤは自分の中に潜む劣情を実感した。
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