高校バニラボーイズ【謹賀新年】
高校バニラボーイズ【謹賀新年】2
2
八重樫家が出発したその夜から、リョウマが着替えなどの荷物を詰めたバッグを持ってシュウヤの家にやってきた。
年末は大掃除があるから、リョウマは毎日道場に通わなければならず。
一方、シュウヤの毎日は予備校で勉強することに費やされて。
それでも、毎日シュウヤと一緒に過ごす事が出来て、リョウマは幸せだった。
何でもない日常の積み重ねでも、新しい事を発見する日々は楽しくて。
相手を深く理解する日々が嬉しい。
倹約しながらの買い出しや、買い出ししながら無駄のない食材の活用メニューを考える事とか。
部屋を片付けたり、洗濯をしたり。
夜はベッドで添い寝したり。
キスどまりな夜の営みが、少しだけ物足りなくはあるけれど、シュウヤの優しさは十分に伝わってくる。
そんな新妻のような自分の在り方にさらに夢想を膨らませて。
リョウマは幸せな疑似新婚生活を楽しんでいた。
大晦日の午後、リョウマは道場での務めを終えて。
自宅に寄ってからシュウヤの家に戻ってきた。
「夜食どうする?」
「あったほうがいいかな」
「年越しそばとか、食べる?」
「あ、いや。もっと簡単な……レンジで作れるくらいの」
「じゃあ、お節食べちゃおうか?お節って言っても、なんかただのオードブルっぽくて、あんまりめでたくもないんだけど」
「いいね。リョウマが作ってくれたんでしょ?」
リョウマが調達してきた食材や料理の数々を冷蔵庫に収容しながら、シュウヤはリョウマとともにキッチンにいた。
そうでもしないとリョウマは自分を置いたまま働きづめで。
甲斐甲斐しく働くリョウマの新妻振りは、シュウヤにとってはありがたい反面、構ってもらえなくてなんとなく不満足感もある。
せっかくふたりきりの毎日を過ごしていたのに、今まではまだ日常の制約があって色々な欲求を自制しながら過ごしていた。
少しでも触れてしまえば、適当なところで切り上げる自信がなくて。
本当に我慢に我慢を重ねてきた。
そんなケダモノな一面を持つ自分自身が信じられなかったけれど、今日からはやっと本当の休みに入ったのだから、シュウヤはもっとリョウマとイチャイチャしたかった。
冷蔵庫に食材を収容し終えてから、シュウヤはキッチンでシンクに向かうリョウマに抱きついた。
「シュウ…ヤ?」
突然の行動に驚いて、リョウマは根菜の皮むきをしていた手を止めた。
「どうしたの?」
「早く食べたい」
「シュウヤ……?」
訝しむリョウマのうなじに顔を寄せて、頬ずりしてからキュッとその肌を吸い上げた。
リョウマはビクンと身体を緊張させて、包丁をシンクの中に落としてしまった。
「──リョウマを、食べたい」
ベタなセリフを向けられて、リョウマは真っ赤になって全身を硬直させた。
「だ……ダメ!」
「なんでダメ?もう我慢できないよ」
接近するシュウヤに正面から迫られて。
首にキスをもらいながら、ゾクゾクと感じる全身が、快楽に走り出すのに抵抗する。
「おれだって、我慢して……」
首と肩を竦めて、リョウマは自分の欲望と戦っていた。
どうしても明日の雑煮のために、大根とごぼうと人参の下ごしらえをしておきたい。
そんな堅実な若妻の自制心を、シュウヤは根こそぎ崩しにかかる。
キスを滑らせて、唇を捉えた。
「我慢していたの?」
つい本音を漏らしてしまって、リョウマは狼狽した。
「や!ちがっっ……」
「──リョウマ」
抱きしめて、キスで煽って。
既に熱を持ち始めていた中心を、腿で擦りあげるように刺激する。
「やっっ。……あ!シュウヤ……んぅ」
荒ぐ息遣いが互いの興奮を伝えて、リョウマは膝から力を失ったように、シンクを背にしてずるずると床に腰を落とした。
「リョウマ」
耳元で甘く囁いて、耳たぶを唇で挟んでキスを贈ると、リョウマは可愛い喘ぎで応える。
「──シュウヤ…ぁ」
「なに?」
「も……だ…め……」
「ね……。しよ?」
誘惑に勝てないリョウマは、手練れたシュウヤに身を任せた。
「……うん」
緊張を和らげて抵抗をあきらめたリョウマは、シュウヤの首に両腕を回して縋るように身を寄せた。
切羽詰まった身体には、余裕なんて全然なくて。
互いの張り詰めた欲は、愛撫だけであっけなく上り詰めて。
ふたりの快楽を導いていたシュウヤの手のひらに、熱い乳白色の粘りをたっぷりと吐き出した。
「シュウ…ヤ」
快感に引きずられるまま自身を解放したリョウマは、シュウヤに抱きついて甘えて。
熱いキスで情を注がれ。
疼く身体の奥に、若い官能の境地を堪能させられた。
シュウヤがリョウマを風呂に促した。
シュウヤは先に済ませていて、夕食の片付けをしていたリョウマを『後はやっておくから』と、バスルームに追い立てた。
こんな時。
いつもは、ずっと一緒に行動するのに。
今夜のシュウヤはいつもと少し違う。
根菜の冷凍をシュウヤに任せて、リョウマはなんとなく腑に落ちないまま、バスルームに入った。
身体を一通り洗ってから、バスタブに浸かる。
いつもはシュウヤとふたりで入っているから、少し狭いかな……と、感じるバスタブも、今は脚がのびのびと伸ばせるほど広く感じる。
シュウヤとはバスタブの中で密着して。
襲ったり襲われたり。
なんだかんだとイチャイチャしながら楽しんでいた。
せっかくの休みでふたりきりなのに。
どうしてシュウヤはこんなにドライなのかな……と考えた。
夕食前の行為も互いの手で昂めあっただけで。
確かに目的は達成したけれど、達成感が今一つで……。
やっぱり受験生ともなると、いつまでもイチャイチャしてる場合じゃないのかな……と、少しだけ消沈してしまう。
誘ってはくれたけど、邪魔しないようにしなければいけない……と、シュウヤの立場を思いやっていたリョウマだったが。
でも、一応準備だけはしておこう。
と、期待は捨てきれなくて、ネコの身だしなみに精を出した。
入浴後、シュウヤに薦められていたお肌のお手入れを済ませてから、リョウマはカットソーとジャージ素材のパンツ姿で、シュウヤが待つ二階の部屋に上がった。
階段をのぼりながら緊張している。
自分の期待がシュウヤに知れてしまったらどうしよう……とか。
何にもないのは、それはそれで寂しい……とか。
そんな複雑な心境でいる自分の本音に気付いて、リョウマは足を止めて壁にもたれかかった。
もうダメじゃん、自分。
……と自覚する。
シュウヤが好きで、好きでたまらなくて。
本当は構いたいし構われたいしで、うっとうしい事この上ない。
色々理由をつけて自制していても、本音の部分は全然違う。
でも、シュウヤには志望校に合格して欲しいし……とか考えるともう自分の中には葛藤しか生まれない。
……本当は、シュウヤの赤ちゃんを生んでみたい
そこまで考えてから、混乱しか生まれない自分が悲しくなって。
リョウマは壁に頭をゴン……とぶつけて、自己嫌悪に陥った。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!