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honey-pot journey【卒業旅行】
ライブハウスいきました6【御手洗薫】





ライブの第一部が終了して、ステージは休憩に入った。
ミキシングルームはそれまでに演奏された曲を再生し始める。
フロアにいたファンたちは、至る所で各々のバンドメンバーとの交流を楽しんでいる。
諏訪のライブは第二部の最後のステージの予定だ。
それまで出番に向けての調整と準備に入っていた諏訪が、一時控え室を出てフロアに現れた。
目ざとく見つけたファンに迎えられて、揉みくちゃにされかかった諏訪は、難を逃れて晃斗と梨玖のテーブルにやって来た。

「──どうだ?大丈夫そうか?」

諏訪は、大音響にこのまま耐えられるかを晃斗と梨玖に確認する。

(うわっっ!!キレイ………)

梨玖は茫然と諏訪に見とれた。

特別なメイクをしている訳ではない。
うっすらとベースを創るためのファンデーションと、目の際のアイライン。
ラインとグラデーションをつけるためのチャコールグレイのアイシャドウ。
ファンデーションを使っているため、不自然にならない程度に、ピンクベージュのリップグロスだけをさしている。

ただ、極めつけのブルーグレイのカラーコンタクトがインパクトを与えて、ボリュームを出してアレンジした亜麻色の髪と相まって美しい。
今夜は眉もゴールドのブロウに染められている。

梨玖は何とか平静に保って笑顔を返した。

「全然平気!……ライブ久しぶりだし。すごい楽しい!!」

梨玖が満開の笑顔で答えると、そこにエプロンを外した白いシャツ姿の御堂が、ドリンクを運んでやって来た。

「楽しいのはライブか?」

テーブルについて、御堂はニヤニヤと笑って指摘する。

すると、晃斗と梨玖はカアァァァ………ッッと、真っ赤になって、恥じらいを見せた。

梨玖の恥じらいからは、何かがあったんだ……と分かるが。
あり得ない晃斗の反応に諏訪は驚いた。

「──なんだ?」

理解が追い付かない諏訪に、御堂が事情を説明した。

「さっきプロポーズして………。婚約が成立したところだ」

「ああ!」

諏訪は目を見開いて感嘆した。

「おめでとうございます」

うやうやしく深々と頭を下げて、祝辞を述べる。
諏訪は、そう言うところは行儀が良かった。

「あ……ありがとうございます」

晃斗と梨玖は、つられて頭を下げた。

「──で、式の日取りは決まったの?」

顔を上げた途端に向けられた質問で、晃斗がなんとなくげんなりと食傷した。

「おまえ何処の親戚だよ……つかそう言う堅苦しいのは無しな!」

「今時、確かに式を挙げないカップルが多いと聞くが。こういうのはちゃんとしておいた方が……」

続けざまに浴びせられる御堂の干渉も、何だか古くさく前時代的だ……と、晃斗は感じる。

「だからそれどこのばあちゃん?つか、そう言うセリフもあんまり聞かない………」

「──男はそれでよくても、嫁はそうじゃないと思う」

諏訪が珍しく、ひとの発言を遮ってまで主張した。
その真面目な態度と言葉を三人とも意外に感じていたが。

(──その嫁も……男だし……)

と、解せなくもある。

結婚とは、ウェディングドレスと共に、諏訪にとっては神聖なものらしい。
冗談やノリでごまかせない雰囲気があって、晃斗はたじろいだ。

梨玖は、何となくふたりの想いが嬉しかった。
自分たちの幸福を、心から願ってくれているのが力強く伝わってきて。
ドレスを着たい訳じゃないけれど、ふたりの愛を何かに誓えるなんて、なんて幸せな事だろうと感じていた。

神様は驚くかもしれないけれど、中にはこんな関係に理解を示してくれる神様だっているんじゃないか……とも思えて嬉しかった。



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