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honey-pot journey【卒業旅行】
宴会始めました12【御手洗薫】





御堂は、スパークリングワインを一本空けてしまったため、次にワインを開けた。それを諏訪の空いたグラスに注ぐ。
諏訪は勧められるままそっと口をつけた。
甘酸っぱい爽やかでフルーティな口触りが、ベリーのジュースのように軽く入ってゆく。アルコール度数もビールやロングカクテル並みで飲みやすい。それはふたりの定番のワインとなっていた。

一息ついて、諏訪はまた想いを口にした。

「──なんか……自虐的に見える………。考えすぎかな」

諏訪の指摘は的を得ている。

梨玖は、晃斗を失うのが怖い。
だから多少の無理なら許してしまう。
それで、晃斗を繋ぎ止められるなら、いささか抵抗を感じることでも受け入れられた。
むしろ、その方が求められているという安心感があって、梨玖には拒む理由がない。

その考え方や感性に少なからず気付いた諏訪は、自分とは全く違う梨玖の在り方から、自分自身の在り方も考えさせられた。

それでも、結論としては、あんな不安な気持ちで抱かれるのは。
自分なら嫌だ……と思った。

「──間違いじゃない。梨玖はいつも不安なんだ」

御堂はグラスのワインを味わって、表情を緩めてから梨玖の真実を暴く。

「基本のリビドーは女に向いている晃斗が……いつか自分から離れる時がくる。深層ではそんな妙な覚悟があって………。いつも矛盾を抱えている」

「そんなの……不安すぎて耐えられない」

「だけど梨玖は耐えている」

御堂は、グラスをテーブルに置いた諏訪の口に椎茸を運んだ。慣れて当たり前のように受け入れた諏訪は、モグモグと咀嚼しながら考え続ける。

「だが……。晃斗も同様に不安を抱えているんだ」

御堂は自分の口に味の染みた白菜を入れて「美味い」と顔を綻ばせる。そして、諏訪の口にも同じものを押し込んだ。諏訪はただ、雛鳥のように餌付けされていた。

「そうは見えない」

白菜を飲み込んでから、諏訪は返した。

「梨玖はエロくて可愛いからな。いつ他所の男に盗られてしまうか心配なんだ」

「何で……ふたりとも別れる事になるような想定ばかりしてんの?」

「──本来は、伝えるべき事と実際が矛盾してはならないんだが。不安なあまり、根本のところで互いを信頼しきれていない」

御堂はそう指摘しながら、諏訪がヒヨコ頭で良かったと実感した。
諏訪は刷り込みが可能だから、一度信じたら疑うことを知らない。
だからこそ、御堂自身もまた諏訪の絶対を信じて、決してその真心を裏切ることは出来なかった。

「──音……しなくなった」

諏訪が台所の状態に気付いた。

「また旦那が先に出てくるぞ」

御堂が予測すると、予想通りシャンパングラスに入ったひとつのジュレを持って、いささかばつの悪そうな晃斗が台所から出てきた。

「──出来たから、園子さんに持って行っていいか?」

「パンダが持って行った方が、母は喜ぶぞ」

御堂の容赦ない指摘に、晃斗は笑顔を引きつらせた。

「あの格好じゃちょっとな。……何処に?」

「この時間なら、まだ母屋のリビングにいる」

御堂が答えると、晃斗は「分かった」と応えて、離れへの廊下に出て行った。



ふたりは、台所に残された梨玖が気になって、放ってはおけなかった。




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