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RISING SUN
la fièvre1



諏訪が歌を乗せて、ヤツラの音楽が完成する。

目の前の事実を受け止めきれない。
そんな動揺に気付いた店長が、おれに教えてくれた。

「連中の公式デビューだ」

満悦そうにニヤリと笑う店長の視線はステージから片時も離れない。



いつも聴いていた諏訪の声が、この会場を揺るがすような音量で満ちてゆく。
それは、あまりに完璧なまでの美しさで、艶のある透明な響きに、内臓の奥まで掻き回されているような疼きを与えられて、背筋が戦慄する。

観客は皆、興奮を抑えきれずに、自然に跳ね出す体を止められない。

大地が揺れる。
歓声と爆音が、天上に届きそうなほど、渦を巻いて上昇してゆく。



おれは、目の前の状況にただ驚いて、まだこの現実を信じられない。

実力あるプロアーティストのライブがそこにあって、会場全ての人の心を鷲掴みにした諏訪が、とてつもなく大きな存在に見える。



曲の合間に、改めてバンド紹介が入った。

会場に集まっているファンたちは、札幌市内のライブに通っていた者たちと、この祭典でバックバンドとして初めてプレイした連中に惹かれた者が混じっているようだ。



それは、今ここでデビューしたばかりでありながら、多くのロックファンを惹き付ける事が出来る連中の実力を示していた。



店長とシゲさんは、夢を叶えた子供みたいな目をステージに向けて、キラキラと期待に輝いた表情で興奮ぎみに語り出した。

「──思った通りだ。連中の音は広い会場でこそ聴き甲斐がある」

「デカイしスタイルがいいから、大舞台でも映えるな」

「新世代だからな。ツラは中性的なクセにガタイがいい。反則だ、あれは」

「おじさんには羨ましい限りだよ……」

シゲさんは、ステージの諏訪を眺めてため息をつく。
そんな彼だって、30代には見えないくらい若くて綺麗だ。
髭の店長はオッサンにしか見えないが。

「これでプロデューサーでもスポンサーでも食い付けば、一気に伸し上がるぞ」

店長はドヤ顔をシゲさんに向けて、ニヤリと笑う。
その笑顔は、大人の深い企みを匂わせた。

「応募してよかっただろ?」

「トキオの親御さんと揉めなきゃいいけどな」

「それはそれ、これはこれ。やろうと思えば何だって出来る。要は結果を出しゃいいんだ。このステージに立てたのだって、紛れもない連中の実力だしな。販売側も満足するだろう?」

「甥っ子可愛さに、今まで断ってたこの仕事を引き受けたのは何処の誰だよ」

「ステージに立ちたがっているのが分かっていて、見ないふりは出来んわなぁ……」

したり顔で、やがて、次の演奏が始まったステージを眺める店長。
シゲさんは、それまでの悪戯な表情を柔らかな笑顔に変えて、この成り行きを嬉しそうに見守っていた。



このふたりは、本当の諏訪の思いを大切にしている。

おれはそう実感した。

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