RISING SUN
登竜門7
「ああどうもすみませんねえ」
全く悪びれないで愛想よく返した店長は、逃げ道を与えられてPA盤に向かう。
そういうごまかしは卑怯だと思う。
けど、シゲさんもあまり深刻な感じじゃなくて……。
まあ、所詮おれ相手の事だし。
そんなにこだわるハナシじゃないんだしな。
「よし!来い!小僧ども」
気合い十分でプレイヤーを待つ店長はいつもよりずっと興奮気味だ。
それまで不機嫌そうに店長をチン軽呼ばわりしていたシゲさんまでが、姿勢を切り替えて音合わせが終わったらしいステージに集中する。
また、ヤツラのプレイを見ることが出来るんだ。
今回は本当に役得だな。
そんなふうに思いながら観客を見回すと、知った顔が勢揃いしている事に気付いた。
軽音部員をはじめ、先輩たち牝豹軍団や茉莉さんの姿も見える。
部員集団の中にはちゃんと花蓮もいて、例のリントとかいうビジュアル部員に背中から抱かれていた。
あれから何がどうなったのか分からないが、少なくともあのふたりにはおれたちの関係が知られてしまった訳で、何とも気まずい。
ぼんやりとそんな事を考えていたら、突然、観客が一斉に興奮を示して、沸き上がる大歓声でステージに連中が現れた事を知った。
今が深夜の3時過ぎだって事が信じられない。
何だこの盛り上がりは?
しかも、ステージに現れた連中は、いつもの普段着仕様の衣装とは全く違う。
夜会服のような黒い衣装で着飾った諏訪とトモアキ。
カズノリは、黒いロングコートを着崩して、肌を晒した左腕から左頬にかけて、黒いデザインペイントを入れている。
ヒロノブは幼い顔に似合わない、男くさい身体のラインを強調するようなタンクトップ一枚に、腕にはカズノリと同様なペイントを施していた。
亜麻色の髪を盛り上げて、豪華絢爛に盛装した諏訪はステージ中央に立ち、宣戦布告するみたいに自分たちのバンド名を叫んで、ライブの始まりを告げた。
そして、期待と興奮で爆発寸前の会場に向かって、初っ端から重い爆音を叩き付けた。
この音。
この旋律。
会場をなめつくす兵器のようなこの爆音。
これは、ヤツラの音楽だ!!!!
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