RISING SUN
登竜門5
諏訪は「最後のステージに上がるから」と言い残して、おれを案じながら控えのブースに向かって行った。
おれはといえば、放心して立つことすらもままならなくて。
しばらく草むらに座り込んだまま、ボンヤリと会場から響いてくる爆音と歓声を聴きながら、つい先程までの諏訪との事を反芻するように思い出していた。
本番噛まされたって訳じゃないのに、抜き手のテクはすごい……と、改めて実感する。
さすがは牝豹に仕込まれただけはある。
プロ級の指さばき……と言うか。
ギター上手いしな。
思い出すとまた身体が熱くなる。
アイツのギターを聴くだけでも、ファンはこんなふうに熱くなるのだろうか?
歌を聴いて、感情が揺さぶられて、身も心も疼いて、黙っていられない。
そんな反応を数多くのファンから見せられてきた。
アイツはおれだけのものじゃない。
おれは、それを知るのが怖い。
アイツがおれに執着すればするほど、アイツの将来の障害になる。
おれは、そんなわだかまりを拭いきれない。
おれは、どうしたらいい?
おれたちは、これからどうなっていくんだろう。
ステージ裏で葛藤を抱えながら、虚ろに星空を見上げていたら、ヤツラの爆音が聞こえてきた。
そうだ。
おれは音を聞いただけで分かるくらい、ヤツラの音にどっぷりと浸かっていたんだ。
おれの日常に、この音楽が常に存在していて、おれ自身の部活よりも身近にあった。
もしかしたら、これが。
おれの青春ってヤツだったのかもしれない。
そんな事に気付いて、何で過去形で考えてんのかな……と、おれの感傷が可笑しくて。
胸が痛くて、たまらなくなった。
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