RISING SUN
登竜門2
おれたちが担当するステージでは、最後に『登竜門』と呼ばれる新人アーティストのライブが予定されている。
深夜1時半から、各々の持ち時間は30分。
3組のバンドが演奏する枠があって。
そこでは、耳も目も肥えた、ひいき目一切なしのロックファンたちの前でプレイを評価される。
……と、おれなりにリサーチしていたが。
これが中々の見せ場らしくて、店長もシゲさんも気合いを入れて取りかかっていた。
諏訪にとっては相変らずの他人事のようで、そこでの音響は店長たちに任せっきりだ。
『楽しい!』と、『楽しみだ!!』と浮かれていたここまでのひと月。
多分、少しの間も惜しんで、寝食を削ってでも練習に時間を割いて、やっとプロのステージを務め上げたに違いない。
そんな経験を積み重ねながら、きっとコイツらは大きくなっていくんだろう。
心ここに在らずな諏訪を見て、おれはそう感じていた。
深夜、『登竜門』のリハーサルが始まってから、諏訪が席を立った。
「──お!?行くか?」
「うん」
店長に当然のように送り出されようとする諏訪の行動が、何を意味するのかおれには分からなくて。
そんな内心を見抜いていたのか、諏訪はおれの手を取ってブースから連れ出した。
誰にも引きとめられないおれたちのこれからに疑問を抱きつつ、導かれるままに付いてゆくと、待っていたのは人気のない暗がりの舞台裏だった。
「──諏訪?」
「うん……」
諏訪は生返事を寄越すだけで、おれを鉄柱で組まれた格子に押し付けて抱きしめた。
「なに……」
「──芳」
「え?」
正面から迫ってくる諏訪の潤んだ瞳は明らかに発情していて、おれを名で呼ばわる状態は、間違いなくその気になっている証拠だったりする。
一体諏訪に何が起こっているのか。
店長たちの公認は、この後の展開を含めての事だったのか?
これはつまり、昨夜の放置のシワ寄せ……。
グルグルとまとまらない考えを巡らせるおれに、問答無用の諏訪のキスが襲ってきた。
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