RISING SUN
いつかの夜2
静かな会場に、何となくひとりで居つづけていたおれは、ひとの気配を感じて後ろを振り向いた。
途端に、背中から抱きしめられて、その体温と、香りと、触れる肌の感触で、諏訪だと分かって緊張を解いた。
「どうしたの?」
ぼんやりとしていたおれに、諏訪が尋ねる。
おれがここに残っていた事に、特別な理由なんてないと思っていたのに。
尋ねられてから、理由を実感した。
『ひとり』を、疑似的に味わっていた。
やがて訪れるであろうこの静寂。
体温を失った空間。
支えのない、ひとりで存在する事の意味を。
おれは初めて考えていた。
不意に、熱を持った柔らかく濡れた感触が首に触れて、諏訪の唇がキスを落としていることを知った。
うなじをなぞるように唇と舌を這わせて、おれの劣情を煽る。
そうだった。
いいステージだった。
最高の音と興奮が、諏訪を押し上げた。
興奮が冷めない諏訪は、おれを抱いてステージを完結させる。
それは、いつもの事だったはずなのに。
今、この時になって。
おれは底知れない背徳感に苛まれ始めていた。
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