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獣道はいりました
手探りなふたり1





あれから機会もなく、おれと諏訪は十分な話が出来ないままで、ただ時間だけが過ぎて行った。

なんだか疎遠になって、自然消滅してしまうのではないかと不安になる程、諏訪は部活だけに没頭しているように見えて。
同じクラスなのに、なんだか遠い存在に思える。



「あらぁカオルくん。いま帰りぃ?」

部活が終わった後の帰り道。
地下鉄の構内を歩いていると、甘ったるい女の声がおれを引き止めた。

振り向くと、そこには諏訪の先輩が電車を待って立っていた。

「トキオは?一緒じゃないのぉ?」

相変わらず下着のようなフシダラな服装でおれに近寄って来る。

もう10月だってのに、そんな薄着で……丈夫な子供産めなくなるぞ。

「最近忙しいらしくて、なかなか逢ってくれないんですよ」

諏訪はバンドの単独ライブを控えていて、最後の調整に入っているため、毎日遅くまで練習している。

おれはしばらくカヤの外というわけだ。

先輩と立ち話をしていると、構内を行き過ぎる男たちがすれ違い様に盗み見たり、振り返ったりと視線が集中している事に気付いた。
老いも若きもスケベなのは変わりないようだ。

確かに、胸もデカイ上等なスタイルで、こんな露出度の高い格好をされたら、顔の造りが十人並みでも、随分と人目を引くだろう。

今までの雰囲気から、この先輩が諏訪のオンナなんだろうと気付いていたが。
おれまで一回くらいお願いしたい気分にさせられる。

「あたしもよぉ。最後に会ったのなんて3週間くらい前でぇ、ずっとメールしてるのに反応無しなんだもん」

あの野郎、まだこの女と続いていたのか?
オモチャにされているのが分かってるくせに。

だけど、あいつもやっぱり女を抱いたりするんだな。
まともに恋愛さえした事のないようなお子ちゃまでも、フェロモンに誘われて本能に忠実なのは同様らしい。

改めて考えるとなんだか切ない。


アイツはいったいどんな顔で女を抱くんだろう。

どんな声で誘うんだろう。


おれは、この女が羨ましくなった。

「──先輩みたいなイイ女を放っとくなんて、アイツもバカだな」

おれは少しだけ媚を売った。

とりあえず社交辞令は欠かさない。

諏訪の先輩なら、おれの印象を悪くしてはならないからだ。

──が、彼女はおれの言葉を拡大解釈して、色っぽい視線を送ってきた。

「じゃあ、カオルくんがデートしてくれるぅ?」

先輩が、おれの腕にぶら下がるように絡み付いて誘う。
豊満な胸の膨らみがおれの腕を圧迫した。

これは拷問に近い。

すごく興奮してきて、収拾がつかなくなった。

───いやいやいや!!

こんな事くらいで何その気にさせられてるんだ!?

落ち着けおれ!!

「今日はバイト休みだからぁ、一緒に飲みに行こ。ね?」

上目遣いで、つけまつげをバサバサさせておれを見上げる。

どこが瞳か判らなくなるほど目の回りが真っ黒に縁取られていて、少なくとも諏訪は女に対して面食いじゃないんだな……と知った。

綺麗なのは自分の顔で見飽きているんだろう。

それでも、こんなオイシイ誘いを断るのは男じゃない。

しかも、おれは彼女に対して、諏訪が抱いた女ってコトへの興味が湧いてきて、どうにも捨てきれないでいる。

「あ……でも、おれ制服だし」
「いいよお。私服買っちゃお。パルコでバーゲンやってるしぃ」

先輩は強引におれの手を引いた。

おれたちは一度降りた階段をふたたび昇って改札口に向かった。




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あきゅろす。
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