獣道はいりました
Deep affection5
さすがにこの状態で二回も抜かれたおれは、ぐったりとしたまま諏訪に後始末を任せて。
服を着るのも億劫でベッドにそのまま横になってウトウトしていた。
とりあえず、いろいろキレイにしてくれた諏訪も、何も着ないままでおれの後ろに戻ってきた。
おれを背中から抱きしめて、うなじにキスをする。
こいつの愛情表現は、本当に甘ったるい。
おれが大好きで、おれを大切にしていて、野郎同士にありがちな、快楽の追求のみに突出した在り方が、こいつには無い。
何よりも優先して、おれを守って愛したいといった気持ちが明け透けに見えて、おれはおれの立場を考えて微妙な気分にさせられる。
抱こうが抱かれようが、精神的なところでは、諏訪はおれの事を『お嫁さん』ポジションとして見ていて、当初の願望を変えていないようだ。
それでこいつのモチベーションが上がるなら、あえて修正する必要もないか……とも思えてきた。
バイトも勉強も、生活全般にこいつがいて。
こいつのいない生活なんて、もう考えられない。
心地いいこの熱を、失いたくない。
成績は順調に伸びているし、性生活も充実して、収入もある。
学生生活としては、申し分なかった。
社会人として、成人としてはどうなのか。
将来を考えた時に、ふと不安が過った。
店長の事を聞いたりして、こんな関係を続けることが可能なのかを知りたかった。
でも、必要なのはそんな前例を模する事じゃない。
本当に必要なのは、この関係を守ろうとする覚悟だ。
風当たりがキツいだろうこれからの人生を、共に歩むと決めたとき、互いが互いの唯一無二の味方なのだと信じる事が大切になるんだろう……と、これが諏訪の結婚願望に対しての、おれなりに出した展望だ。
いつか、おれたちが離れる日が来たとしても。
その時は、おまえに出逢えて、愛して、愛された事に感謝したい。
そんなふうに、綺麗な心でおまえを見続けていたい。
だから………諏訪。
「──もう……女やめろ。全部別れてこい」
前触れのない突然の事に、諏訪はおれの背中で黙り込んでしまった。
そして、ため息をついて、おれの顔を覗き込むように頬を寄せてきた。
「──芳もね」
「おれはとっくにおまえだけだ」
「おれもだよ」
諏訪はおれをギュッと抱きしめた。
「もう、好きな人としかしない。芳しか好きにならない」
一時の、若さ故の過ち。
こんな関係も、青春の甘酸っぱい想い出の一頁を飾るくらいのノリで始まったはずなのに。
何だか予想以上に相性が良すぎて、好きになりすぎて、無くしたくない……と大切に思うようになって。
おれは、諏訪の熱にほだされて、ガラにもなくふたりの永遠を切に願っていた。
諏訪が、おれの背中にキスを寄越して、そこに頬擦りした。
おれの背中は、きっと見るも無惨な痣だらけなんだろうな。
けっこう強く吸われていたように自覚する。
諏訪は独占欲まで満たすようなこんな関係に満足しているようで、夢見るように吐息混じりに呟いた。
「──結婚してくれる?」
相変わらずのプロポーズにさすがのおれも根負けした。
「おまえが嫁になるんならな」
「いいよ。おれがお嫁さんでも」
諏訪はクスクスと笑って、揺るぎない自信を見せた。
しかし、象印な攻め嫁なんて聞いた事もない。
おれは何だか自分の将来に一抹の不安を覚えた。
諏訪は相変わらず、幸せそうに笑って欺瞞を隠したまま、おれの背中のキスマークをさらに増やしてくれた。
獣道はいりました
──終──
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