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獣道はいりました
Deep affection1





12月。

師走に入った途端に雪が降って、街はたった一晩で一面の冬景色へと色を変えた。

まだ柔らかい朝の新雪を踏みながら、自宅から地下鉄の駅まで歩く。

冷たい空気が鼻と喉を冷やして呼吸を震わせる。
身体の熱が凍り付く吐息と共に逃げていくが、身体は程よく暖かいのでこのくらいの冷却はちょうどいい。

おれは、ALPHA TYPE N-3B をがっちり着込んで防寒対策をしていた。
対シベリア用米軍防寒ジャンパーは冬の定番だ。

真冬でもコートやジャンパーを着ない連中が居るが、あれはどうかしていると思う。皮下脂肪をため込みそうだ。
女子で脚が…………………いや、止めておこう。



あれからのおれたちは、それまでのぎこちなさが消えて、今では互いに自然体で傍にいる。

いたずらに互いの事を探り合う事はせず、また、過剰に求める事もせず。
相手のあるがままを受け入れて、優しさを分け合う無心な関係。
おれたちは、やっとその域に到達できた。

身体ごと……心まで繋がったような安心感がおれたちの中に確立されて。
実はそんな関係に辿り着くまでが、本当に大変で難しいのだと実感している。



諏訪はライブの追い込みに忙しくなったし、おれはそろそろ受験に本腰を入れるため、予備校に通い始めた。

あまりガツガツした生き方はしたくないので、余裕をもって取り組みたかったため、おれは部活を引退した。

陸上部の顧問や後輩から引き止められもしたが、おれは陸上に人生を懸ける事が出来る程の成績を残してはいない。

予定通りの進路を決めるにあたって、困らない学力を身に付けていたい。

そう決断して、おれは学業に専念する事にした。



諏訪の方は相変わらずで、バンドが一番な野郎だから、今はクリスマスライブに向けて熱中している。

あいつは最近、よく笑うようになったために、さらに人気急上昇中で。
おれといるときは大体表情が緩んでいるから、諏訪スマイルの目撃者が急増した。


教室でも座席が窓側の一番後ろとその前に並んだために、ずっと一緒にいる実感がある。


朝も地下鉄の時間を合わせるようになって、部活と予備校で別れる時以外は、ほとんどいつも一緒に過ごしていた。


ふたりでいる事が多くなると、それだけ互いの情報量は増えてくる。
例えば、諏訪は弁当派で、ツグミ姉さんの料理の評価を強制されているらしい。
おれも弁当なので、食堂で一緒に食べるのが習慣になった。

時々分けてもらうツグミ姉さんの料理は………………微妙だ。

ただし、ツグミ姉さんに真実を伝えると不機嫌になって面倒だから、適当にごまかしている……と諏訪は言う。

だから、いつまで経っても上達しないんだ。


諏訪は授業中によく居眠りをする。

低い冬の太陽は、窓ガラスを抜けて教室内に射し込んできて、その暖かさはたまらなく気持ちいい。

そんな誘惑に負けて、諏訪は本当に気持ちよくおれの後ろの席で眠り続けて、挙げ句目覚めてからおれに勉強を教えろと迫る。

結局は互いの放課後活動が終わった後、どちらかの家に寄って、勉強することになって、外泊も多くなった。


や……しないけど

家族がいるところでは無理


それを、諏訪に伝えても、あいつのエロスイッチは解除が効かないため、おれはいつも大変な思いをしている。

だから…………。


おれはオーラルが上手くなった。


欲求が満たされて、心も身体も満たされたようで、おれたちは常にぬるく甘ったるい関係を貫いている。



地下鉄の駅に着いてから、おれはすぐに、ホームに入ってきた車輌に乗り込む。
ドア付近に、諏訪が立っていた。

「──はよ」

おれを見つけた諏訪が、手を上げて迎えてくれた。

「おはよ」

おれはすれ違い様にその手を取って、そのまま諏訪の後ろに立った。
手を繋いだまま密着する。

諏訪も同じジャンパーを着ているから、密着と言っても布団一枚隔てている位の感じがする。
それでも、手を繋ぐことが出来る朝のラッシュは幸せな時間だ。



そんな感じの日常の積み重ねで、おれたちの時間は過ぎていった。




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あきゅろす。
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