獣道はいりました
すれ違いなふたり2
「御堂────っっ!!」
ここはグラウンドのサッカーフィールド。おれは今、サッカーの決勝戦の真っ只中にいた。
絶妙なパスがおれに通ったが、すぐにマークされて思うようにボールが運べない。いくらおれの足が速くても、ドリブルしながらの全速力は無理だ。
校内球技大会。
全校生徒が強制参加のクラス対抗のお祭り的行事は、クラスの名誉と意地を懸けて、何の報奨もないはずなのに、なぜか全員が熱い闘いを繰り広げていた。
この大会には、運動部の連中は自分の所属する部の種目には出場出来ないという、公平かつ姑息なルールがある。
素人相手なら、おれの足で撹乱できると思ってこの種目を選んだが、自分も素人だったのだと思い知った。
フィールドを走るおれの視界に、マークを外れてゴールの右サイドに向かって走る諏訪の姿が飛び込んできた。
陽射しを浴びて金色に輝く髪と、ゴツい野郎の中にあってただひとり可憐なルックス。
諏訪はやはりどこにいてもよく目立つ。
しかもいい位置にいる。
オフサイドぎりぎりだが、アイツの運動神経に賭けてみるのもいい。
おれは執拗にマークしてくる3年を一瞬かわして、フリーになった諏訪めがけてパスを送った。
諏訪が胸でパスを受け取った。
(──通った!?)
自分で送っていながらなんだが、おれはいささか驚いてしまった。
膝でワンクッションおいて、タイミングを測る諏訪。
チームの連中はおれを非難するような視線を叩きつけてきた。
なぜあんなヤツにボールを回すのかとでも言いたそうな絶望に近い表情。
失敬な連中だな。
確かに、勝負事には全く熱くならない男と称されているし、それは全くと言っていいほど的を得ている。
だが、愛と信頼を込めたおれのパスを、諏訪が無駄にするはずがない。
諏訪はおれの想いをのせたボールを運んで、重心を落としながらゴールに向かった。
諏訪の身体が華麗に跳んでボールを蹴った。
信じられない事に、ドライブのかかった強烈なシュートが、一瞬遅く反応したキーパーの手をすり抜けて、ゴールネットに吸い込まれた。
「諏訪あァァァ────ッッ!?」
すごい!
期待以上の働きだ。
魅せてくれるぜ、ちくしょう。
フィールドを囲むギャラリーから黄色い声援が押し寄せる。
おれはすぐに駆け寄って、このゴールを一番信じられないでいる諏訪を抱きしめた。
「すげー」
「よくやった!」
わらわらと集まってきたチームの連中が、口々に諏訪を讃えて揉みクチャにしてきた。
コノヤロウ。
初めは信じてなかったくせに。
なれなれしくコイツに触るんじゃない。
だいたい諏訪を抱きしめる事ができるなんて久しぶりなんだ。
邪魔すんな。
だけど、チームでするスポーツってのはいいもんだな。
こんなに堂々と人前でイチャつけるなんて幸せだ。
ああ………同じチームで良かった。
「──御堂…苦しい」
おれの腕の中で諏訪がつぶやいた。
「ああ。ゴメン」
おれが放すと、諏訪は戸惑いと恥じらいを見え隠れさせた表情で離れて行く。
やっぱりおかしい。
なぜ笑顔で応えない?
なぜだ。
まさか……他に男でも出来たか?
いや、それはあり得ないな。
諏訪のおれへの態度や表情は、恋するもののそれに他ならない。
それなのになぜ、そんなにおれとの触れ合いを拒むんだ?
いよいよもって面白くない。
おれはなんとなく不愉快になって、試合中は猛然とモヤモヤを発散してしまった。
そんな訳で、怒濤の勢いに乗ったおれたちは、3年をねじ伏せて優勝を手に入れた。
[*前へ]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!