獣道はいりました
獣道はいりました2
おれは、ベッドに新しいシーツを敷いてから、そこに腰掛けて雑誌のページをめくった。
そういえば通販でローションを買ったって言ってたな。
出所はここか。
おれはだんだん諏訪の真実に迫っていた。
……にしても、これはその
なんていうか……
おれは、自分の顔が赤くなったり蒼くなったりしている事を自覚した。
逞しいアニキたちが肉体を闘わせるようなセックスグラビアが満載で、何気に暴力的なものや緊縛ものまで……。
キッツいな……
もう一冊、別な雑誌はおれと同年代が対象らしく、ビギナーのHow toものが掲載されている。
どうしてあいつは、こんなものを買ってまで読んでいるのだろう。
もともとその気があったわけじゃない。
野郎同士がセックス出来るなんて事を知らなかったあいつが、こんな雑誌をずっと購読していたとは考えにくい。
先輩に教えられて、ショックを受けていたあいつの事だ。
あり得ない。
だとしたら……。
あの野郎
変な知識入れやがって
「──あっっ!?や……見るなよそんなモン!」
諏訪が慌てておれから雑誌を取り上げた。
部屋に入るなり突進してきたヤツの勢いはハンパじゃなかった。
荒い息で肩を上下させて、真っ赤になって動揺している。
コーヒーで汚れたTシャツは脱いできたらしく、Gパン一枚でゲイ雑誌を手にしている姿はなかなか意味深でいい。
「そんな本で何やってたんだよ」
意地悪な質問を浴びせて、さらに諏訪の赤面と動揺を誘った。
「なんにもしてないよ!」
おろおろして、声を荒げる諏訪に、ベッドから立ち上がって近寄った。
「男同士がセックス出来るなんて、どうして分かったんだ?」
「そ……れは」
「男同士のセックスの現実を知りたかったんだろう?」
諏訪は何も答えられない。
「研究したくてそんな本に手を出して、けっこうグロい現実だったんでビビったんだろう?」
諏訪の表情が変わった。
図星を指されたのか、驚きで身動きひとつ出来なくなった諏訪は、緊張した表情でおれを見つめた。
「おれに襲われやしないかって、ビビってたな?諏訪」
立ち尽くす諏訪の締まった腰をグイッと抱き寄せて、おれはさらに迫った。
「──おれがおまえにあんな事をするとでも思っていたのか?」
おれの洞察に、諏訪は蒼くなって、間近に付き合わせる顔を困惑しながら見つめてきた。
諏訪はおれを抱く事なんて考えてもみなかったはずだ。
男同士のセックスに怯えていたのは、今までの数々の行動に現れている。
そうだ。
こいつはおれに怯えていた。
おれに抱かれる事に怯えていた。
だから、先手を取っておれを抱いてきたんだ。
男同士でも、男女のそれと変わりない事を、おれに教えたかったに違いない。
冗談じゃない。
おれはあんな即物的で、ただ刺激が欲しいだけの関係を諏訪に求めてなんかいない。
おれたちはちゃんと交際して、互いを大切にしてきたはずだ。
それなのに、こんな媒体に踊らされて、おれを全く信用してくれなかったコイツに、腹が立って仕方がない。
……っつか、もうガッカリ。
悲しいし……。
泣くぞおれは。
夜泣きするぞ。
「そうだよ。怖かったんだ。……あんな拷問みたいなセックスなんてしたくない。あんなふうに縛られて、バイブ突っ込まれるなんて嫌だったんだ」
「おれがおまえに、バイブ突っ込むとでも思っていたのか?」
「だって……。どれ見てもそうじゃん。痛そうで、苦しそうで……。おれ、おまえが好きだけど、あんなのは嫌だ!」
こいつのヒヨコ頭、ここに極まれり。……ってトコだな。
緊縛SM特集号だろ?
たまたまだろ?
てか、ちゃんとHow to読んだからあんな事出来たんじゃねえの?
もう、ホント……。
理解を越えてため息しか出ない。
「プラグもバカみたいにデカイし……。あんなに拡げられたら、おれ壊れちゃうよ」
「おまえだってバカみたいにデケーよ」
おれはあまりにも情けなくて、つい、心の呟きを口にしてしまった。
「そんな……バカってゆうなよ。御堂がお嫁さんになってくれたら、絶対に優しくするって決めたのに……」
諏訪は潤んだ瞳でおれを責める。
ああ……。
バカな子ほど可愛いってのは本当だった。
ここは、おれが何とかなだめないと、こいつとの関係はこのまま拗れてしまうんだろうな。
Sだと思われていた、おれの方が泣きたいよ。
諏訪。
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