獣道はいりました
ふたりきりの夜5
「ちょっと腰……上げて?」
諏訪はベッドの脇に押しやられていた枕を引き寄せて、言われるままに浮かせたおれの腰の下にそれを添えた。
「ちょっと……場所が違うとね。御堂も多分この方が楽」
そう呟きつつ、諏訪はおれと自分自身にローションを追加した。
そして、さらに滑りをよくしてから、ふたたびおれに宛がい、押し込んできた。
ズン……とした重さを感じて、おれは少しだけ構えて身体を強張らせてしまう。
「大丈夫?……痛くないよね?力抜いてよ、ちゃんと愛したいから……」
諏訪がおれを見下ろして、ありったけの想いと情を向けてきているのが、ありありと分かる表情を見せる。
「さっきより抵抗ないよ。おれを見て。……感じて。御堂」
ゆっくりと抜き挿しを始める動きに与えられる刺激に、思わず声が洩れた。
信じられないほど甘いおれの声。
キスがおれの声を塞いで、行き場を失い咽びに変わる。
諏訪はゆっくりと、確実におれを絡め取って、支配してゆく。
こんなふうに抱かれて、情を注がれて、おれは、おれじゃなくなった。
こんなのは……おれじゃない。
抱かれて。
与えられて。
悔しいほど気持ち好くなってきて。
また混乱して、泣きそうになっている自分に気付いた。
やっぱり、おれらしくない………
おれの頭の冷静な部分が、おれの、諏訪に対する甘い在り方を嘲笑していた。
「──御堂。……いいの?」
諏訪が、おれの変化を察して訊ねる。
いいの?…………って
さっきの『いいの』は『していいの?』の『いいの』だった訳で『気持ちいいの?』の『いいの』じゃなかったんだ。
ああ………。
おれが勘違いしたばかりに、墓穴を掘ってしまった訳で………。
大切なモノまで掘られてしまって。
まあ、諏訪だから良かったものの。
いや。
それ以前に、おれのケツを掘ろうなんて野郎は、後にも先にも諏訪くらいのものだろうけど。
今度の『いいの』は間違いなく『気持ちいいの?』の『いいの』なんだろうな。
「──たぶん。……でも、よく分からない」
こんな快感は初めてで、これからどうやって達けるのかが分からなかった。
先輩は常におれの欲棒を刺激していたから、おれは乱されたのだ。
こんな秘孔を突かれただけで、疼きが止まらなくなるなんて信じられない。
それとも、あの時とは比べ物にならない大業物がおれを支配しているから強く感じてしまうのか。
「ちゃんと善くしてやりたいんだ。教えてよ」
ゆっくりと腰をグラインドさせて、おれの反応を伺いながら責め立ててくる。
おれ自身はすっかり硬くなっていて、濡れた先端に諏訪の指先が具合よく滑り。
円を描くように繰り返される刺激は、おれに辛いほどの焦燥感を与えた。
「おれは気持ちいいよ。御堂、すごく締まるね」
諏訪が、快感に酔うような陶然とした表情でおれを責め続ける。
「ねえ……。ここ、いいんだ?」
見つかった……と、期待と諦めが複雑におれの中に交差する。
「ここ……たぶんあれだよね?こうすると、すごい締め付けてくる。……感じてるんだよね?御堂」
もう。
どう答えていいか分からない。
はっきりしない。
なのに、確実におれを追い詰める。
それは、たぶん諏訪の指摘する通りで。
この快楽が本物なら、おれはもう少しで全てを手放してしまう。
焦れったい。
もう少しで掴めそうなのに。
「──分からない……。諏訪」
おれは追い詰められて、また泣きたいほどの衝動に駆られた。
本当は、こんな自分を認めたくない。
諏訪を抱いて乱したかったおれが、反対に支配されるなんて思ってもみなかった。
思いも寄らない現実は、容赦なくおれを急き立てる。
焦らされるのが嫌で、早くイッて解放されたい。
それなのに、一方ではもっと快楽を欲しがる自分がいて。
そんな相反する自分の感情に混乱する。
「──もっと……諏訪」
おれは諏訪に縋った。
「いかせてくれよ」
ねだるおれを受け止めて、抱き返してくる諏訪のバカ力は信じられないほどで。こいつの本気を感じさせる。
「御堂」
諏訪はおれの乱れた前髪を撫で上げてキスをくれた。
おれを愛おしむ切ない視線が熱い。
おれは、自分の立場なんてもうどうでもよくなった。
抱こうが抱かれようが、そんな事はもうどうでもいい。
こいつと一緒に共有出来る最高の瞬間があればそれでいい。
諏訪はおれを抱きしめたまま、不意におれのずっと奥を貫いてきた。
突然襲ってきた強い刺激は、おれの正気を揺さぶり、全てを奪って奈落に叩き込んだ。
体の自由が利かない。
全身が甘く痺れたように、ベッドの上に蕩け出してしまいそうで。
自覚のないまま、腹の上に熱い滴りがあふれていた。
快感がいつまでも続いて。
容赦なく与えられる許容を越えた快楽は、脳内物質の過剰分泌をきたして。
快楽に酔わされたおれは、自分がおかしくなってしまったのではないかと思うほど、淫らに声をあげていた。
前言撤回だ
経験豊富なお姉様のオモチャなんかじゃない。
経験豊富なお姉様を満足させる事が出来るほどの野郎なのだと、認識を改めなければならない。
男同士という壁さえ乗り越えてしまえば、こんなに熱い野郎だったなんて、予想外もいいところだ。
天然ボケは本当に知らなかったからで、ボケている訳ではなかったんだ。
ああ……すげえ
こんなのありかよ
おれは……おまえに溺れそうだ
諏訪
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