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獣道はいりました
ふたりきりの夜3





「夕飯……食べてきた?」

風呂からあがってドライヤーで髪を乾かしてから諏訪が訊ねた。
心なしかおれを見る目がはにかんでいる。

「ああ。おまえは?」

髪を乾かしたバスタオルをハンガーにかけて問い返す。

「おれも食べた」

パジャマに着替えたおれたちはリビングに戻って、すっかりぬるくなったアイソトニック飲料を飲み干した。

諏訪がおれを眺めて感心する。
自分がゆったり着ているパジャマのサイズがぴったりだと、照れくさそうに笑っていた。

この笑顔に逢いたかった。
風呂上がりの身体が熱を帯びて、頬や唇だけではなく指先までピンク色で。
おれはもうホントに嬉しくて舞い上がっていて、ほぼ完全に悩殺されていた。

これからどうするか。
夜はまだ長い。
だけど、おれはもうこれ以上は待てない。
諏訪を抱きたくてもどかしい。

そして、諏訪のほうも、リビングに突っ立ったままで、どうきっかけを作っていいか迷っているように見えた。

「おまえの部屋、ベッドあるか?」

おれの一言で全てを察して、諏訪は驚いたような顔を向けて来た。
ボケで返さない諏訪は珍しい。

「ある」

意を決した視線でおれを見つめる。

「じゃ……行こう」

おれたちは少しの間、互いの感情を探るように見つめ合った。

諏訪は、もう迷いを見せない。
その佇まいは、おれの前から失われる事はないのだと実感した。



おれたちは、共に二階に上がった。
そして、そこに並んでいるドアのひとつを開けて、諏訪はおれを招き入れた。

ひとりで過ごすには広い部屋だ。
キーボードとギターが置いてあるところが、諏訪らしい。
厚い天版のセンスのいい重厚なデスクには、パソコンが設置されており、不自由ない生活が垣間見れた。

大きな書棚には音楽関係の雑誌やムックがぎっしり詰まっていて、そこがまた諏訪らしいと思う。

そして、背の高い観葉植物が大きめの鉢に植わっていて、そんなものを置く余裕に感心した。
ふつうこれだけデカイのは公共性のあるロビーなんかに飾るだろ?
たぶん猫可愛がりの三子次男坊なんだな、きっと。

室内では暖色のウオールライトだけが天井に向かって灯っている。
淡い蜜色の明かりだけがぼんやりと灯る室内は、先ほどまで諏訪が休んでいたのだろうと容易に想像できた。
壁際に広いセミダブルのベッドかある。
シーツにはくっきりとシワがあって、諏訪の痕跡を残していた。

「今、シーツ取り替えるから……」

ベッドの状態を気にした諏訪は、シーツを剥ぎ取ろうとしたが、おれは背中から抱きしめてそれを引き止めた。

「どうせまたシワになるんだ。そのままでいい」

諏訪の動きが止まる。
背中越しに、強い動悸が伝わってきた。
おれの速い鼓動も、熱い体温も、諏訪には伝わっているだろう。

なのに、抵抗してこない。

おれは、手を握ったままベッドに腰かけて、すっかりその気でおれを見つめてくる諏訪を誘った。

迷いなくおれの隣に腰かけた諏訪をすぐに抱き寄せて、そっとくちづけを交わす。
唇だけが触れるキス。
何度も唇を軽く吸って、そっと触れて。
唇が痺れるような快感に満たされる。

おれは自分の感情に押し潰されそうな程の幸せを感じていた。

キスはやがて唇を離れて、おれの衿元に贈られてきた。
さっき着たばかりのパジャマのボタンを外して、諏訪の手がおれの肌に触れてくる。

随分積極的じゃないか。
やる気マンマンなのはお互い様だったようだ。

不意に、諏訪がおれをベッドに押し倒して身体を重ねてきた。

深い愛情を覗かせるような視線がくすぐったい。
おれを見下ろす諏訪は、ふたたびキスを重ねてきて、舌だけじやなく口全体を愛撫してきた。
それは、快感とは言い難いようなゾクゾクする感覚で、何だか背筋に寒気が走る。

なのに、それは股間を直撃して、おれのズボンの中の収まりが非常に悪くなってしまった。

「御堂……。ホントにいいの?」

キスを離した唇がささやいてくる。

「ホントにおれでいいの?」

切ない想いが伝わってくる。

なんて可愛い事を言ってのけるんだろう。
健気なこいつが愛しくて堪らない。


こいつには敵わない……


おれはそう実感した。

「嫌じゃないの?」

おれを見下ろす諏訪は、まだ不安を抱えているように見えた。

ばかだな
なに泣きそうな顔してるんだよ

「おまえが好きだよ。おまえだけだ、諏訪」

「ホント?」

「本当」

いつも抱きたいのはおまえだった
嘘じゃない

「御堂」

感極まったように諏訪はおれを抱きしめた。
熱っぽい視線でおれを見つめてから、はにかんだ笑顔を見せる。

「──今度は、御堂を気持ちよくしてあげる」

そんな風に熱っぽい表情で言ってから、諏訪はおれのパジャマと下着を剥いで、迷うことなくおれの竿にキスを贈ってきた。
心の準備だなんだと照れていたこいつの行動とは思えない。
突然の行為に、おれの方が臆してしまう。

「諏訪……ちょっと!」

戸惑うおれの様子に気づいたのか、諏訪は股間から顔を上げた。

「──ん?」

おれの半端な生勃起に唇を寄せたまま、上目遣いで尋ねてくる。
そのビジュアルにガツンと殴られたようなインパクトを受けて、おれは一気に完勃ちしてしまって、どうにも取り繕うことすら出来ずに、顔が赤くなるのを止められなかった。

おれの膨張を手にしていた諏訪は、その変化を知って艶然と笑って見せた。

「──恥ずかしがらなくていいよ……。ちゃんと感じて」

そう言う諏訪の慈愛に満ちた表情は、大切な相手を扱っているような男の優しさを感じさせる。


諏訪
恥ずかしいのはおれじゃなくて、おまえのその在り方だ


諏訪は改めておれに身体を重ねてきた。
キスを重ねながら次第に煽られて、おれたちは互いの舌先を舐め合った。

服を脱がせながらキスを離すことなく、やがて露になった肌を密着させて抱きしめた。

キスは耳元から首筋を降りてきて。
胸に辿り着くと、硬くすぼめた舌先で乳首を強く圧迫するように舐められた。

キモチイイとは言い難いが、不思議な事にこれも股間に響いてくる。

この感じを嫌だと思うヤツもいるだろうけど、さしあたっておれは、諏訪が折角してくれている事なので、諏訪のリードに任せることにした。

だが、こんな受け身でいいのか?
諏訪の好意はありがたいが風俗にいるような気がしてなんとも……

そんな事を考えていると、熱い唇がまたおれの欲棒を銜えてきた。

こ……れは?

このテクニックには覚えがある。



諏訪
やっぱオマエ、あの女とヤってたな?

このリードはあの女と一緒じゃないか

すると、もう少しでアレがあるわけか?



おれはこの後の展開が読めて、複雑な気分にさせられた。




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