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獣道はいりました
ふたりきりの夜1





リビングに戻ってから、ソファーにくつろぐおれを残して、諏訪はキッチンに入った。
何やら物色してから、またリビングに戻る。
手にはアイソトニックドリンクを持っていて、その一本をおれに手渡してきた。

諏訪は、ソファーの端に腰掛けて、おれたちはソファーの両端に離れて座る事になった。

何気なくコントローラーを手に取って、テレビのスイッチを入れた。
大画面に番組が映し出されると、途端にリビング全体がその番組のムードに満たされる。
お笑い芸人が司会をつとめる、歌とトークで綴る番組。
一流のアーティストたちが、芸人に完膚なきまで言葉で弄ばれている。
そんなお笑い番組を前にしながら、諏訪はこれ以上ないくらいに緊張していた。


いくら取り繕っていても、突然プライベート空間に現れたおれに対して、どう向き合っていいのか分からない様子が分かる。

「諏訪」

声を掛けると、予想通り、一瞬ピクンと緊張して過剰な反応を見せた。

「なに?」

「少し汗かいてただろう?シャワーでも浴びて、パジャマ着替えろよ。また熱出すぞ」

おれが言うと、諏訪はなんだかホッとしたように肩の力を抜いた。

「うん。じゃあ、風呂入ってくる」

諏訪は、立ち上がってから、ふと気付いたようにおれを見た。

「御堂は?」

「おれ?」

「風呂入ってきたのか?」

正気か?
おれを誘ってくれるのは嬉しいけど、ホントにいいのか?

「一緒に入ってもいいのか?」

おれはわざと無心に振る舞った。
変に下心を勘ぐられると、またガードが固くなってしまう。

諏訪は一瞬の緊張を隠せない。

でも、自分の態度の不自然さを感じたのか、おれの申し出を受け入れた。

「いいよ。……おれ、着替え取ってくるから、先に入ってて」

諏訪に浴室まで案内されて、おれはすぐに服を脱いだ。
広いスペースの洗面所で、ドレッサーの大きな鏡に映る自分の姿を眺めて、おれは自分の鍛え上げた体に惚れ惚れした。

よし!
やるしかない

おれは決意を新たにして、これから迎えるふたりだけの夜に大いに期待していた。



諏訪と一緒に風呂に入るなんて、露天風呂以来だ。
あいつがおれを遠ざけてからは、スキンシップはおろか、抱きしめる事すらままならなかった。
露天風呂でのぼせた諏訪を抱き寄せたあのときの。
今でもこの手に残る諏訪の肌の感触が、生々しくおれを誘惑する。
どうしてあんなに体毛が薄いのか分からないが、この年で腋毛もすね毛もない野郎なんて、おれはあいつしか知らない。

そのスベスベマンジュウ蟹のような玉の肌を、やっと拝めると思うと………。



いや!

まずいことになるから考えるな!
平常心だ!

余計な事を考えても見ろ
おれのイケナイ張本人が暴れだしては、諏訪が引く!
絶対に考えるなっっ!!



おれは葛藤しながら、浴室のイスに座ってシャンプーしていたが、考えながら頭をコネ回しすぎて、巨大なアフロのようになってしまった。

ドアがカチャリと開く音がした。
スウッと冷えた空気が足元に流れ込んできて、それはふたたびドアが閉じた事によって遮断された。

おれの視界に白い綺麗な脚が現れた。

諏訪のナマ足………?

また余計な事を考えそうになったおれの頭が、不意にシャワーによって流された。
大量の泡が足元をうめつくす。

諏訪はおれの髪をシャワーで洗い流して、クスクスと笑いを洩らした。

「泡出しすぎ」

洗い上がった髪に、フワリとフェイスタオルがかぶせられた。
ガシガシと頭を拭くおれに、諏訪はシャワーヘッドを寄越してくれた。

おれは身体にまといつく泡をシャワーで流してから、浴槽に浸かった。

替わりにイスに座ってシャンプーする諏訪の身体は、少し痩せたように見える。
なんだかやつれてしまったようで可哀想だ。

一度シャンプーを洗い流してから、またシャンプーで二度洗いし始めた。
しかも、見たことのない高そうなシャンプーはいい匂いがして、それはサラサラの諏訪の髪から、いつも香っている匂いだ。

道理で……と納得した。

じっと見つめるおれの視線に反応して、諏訪はシャンプーを流してから怪訝そうにおれに訊ねた。

「なに?」

「随分念入りに洗うんだな」

諏訪は、おれの指摘を妙に拡大解釈したらしく、カァッ……と顔を赤らめた。

だが、そんな気持ちをおれに悟られまいとする。

「二日も入れなかったから……なんかスッキリしなくて」

タオルで髪を拭いて、言い訳する。
その困ったような、恥ずかしそうな態度が可愛い。

ムラムラと邪な欲がおれを支配し始める。

こんな肌を見せ合うような場所におれを誘った事を後悔するなよ。
これじゃあ犯って下さいと言わんばかりのシチュエーションなんだ。

おれは浴槽から上がって、諏訪の後ろに膝を落とした。

「──背中流してやるよ」

おれは諏訪の手から石鹸で泡立つスポンジを半ば強引に取り上げた。

「いいよ。そんな……」

「遠慮するな」

戸惑う諏訪を制して、おれは諏訪の身体に触れた。
左肩を手で固定して背中を流す。

触れた手に諏訪の体温が伝わってきて、おれは諏訪の背中を流しながら感慨に耽った。




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