金獅子運送会社
金獅子運送会社24
オスカーを担いだまま追っ手の追跡をかいくぐったウルフは、まんまとラヴィアンローズのポッドをせしめてそこから脱出した。
「すぐにポッドを追いなさい!折角の人質をウルフに横取りされるなんて……わたくしのプライドが許さなくてよっっ!!」
ノアールがブリッヂで叫ぶ。
すると、ウルフの脱出と同時に、ラヴィアンローズが直撃を受けた。
「――何なの!?」
被害は免れたものの、ビームを弾いた衝撃で船体が振動する。
「右舷よりニルヴァーナ接近。直撃を受けました」
「ニルヴァーナですって?」
オペレーターからの報告を聞いて、ノアールの表情が硬直した。
そして、いまにも泣き出しそうな情けない表情に変わる。
「どーして早く見つけないのっっ!?」
「ここ一帯は廃棄処分となっている通信衛星の……」
「言い訳は聞きたくないわ!」
ウルフを乗せたポッドを守るように、護衛船ニルヴァーナが接近して来る。
その間も攻撃は続いていた。
「船長。迎撃命令を」
オペレーターたちがすがるような視線をノアールに向けてくる。
「――嫌っっ!」
「船長……?」
オペレーターは茫然としてノアールを見つめた。
「ニルヴァーナに敵うと思って?」
ヴェルガ空域で散々敗退を記してきた彼らにとって、ノアールの指摘は重くのしかかって来る。
「撤退よ。人質は諦めるわ。なんとかごまかして取引すればいいのよ」
ノアールは開き直りを見せる。
「プライドは……」
「そんな金にもならないモノどうでもいいわ!撤退よっっ」
ノアールは後退を余儀なくされ、その空域から離脱して行く。
脱出ポッドは救護艇に迎えられ、ニルヴァーナに収容された。
縛られたままのオスカーは、ウルフに担がれたままニルヴァーナの船内に案内された。
「ここは?」
「俺の船、ニルヴァーナだ」
船長を迎える乗組員たちの労をねぎらい、ウルフは船室に入った。
寝台に降ろされたオスカーは、ウルフに縄を解かれ、やっと身体の自由を取り戻した。
「クラリオンは?」
オスカーは交渉の行方を案じた。ウルフの行動の裏に何があるのかも知りたかった。
「さあね。きっと今頃はフォボスに向かっている頃だろう」
「じゃあぼくも、フォボスまで連れていって下さい」
すがるように懇願するオスカーを見て、ウルフは口角を持ち上げて笑った。
胸元がはだけて乱れたシャツから、ロープに擦れて赤くなった小さな乳首が見え隠れして、ウルフを誘っていた。
「そう焦らずゆっくりしていけ。少しぐらいいいだろう」
「でも……。みんなが心配しているから」
なにやら怪し気なムードを伴って接近してくるウルフに圧されて、オスカーは彼を避けるように上体を後ろに反らした。
「な……なんですか?」
「君の身体が反応していたね……」
オスカーはその一言に驚いて、一瞬で顔を真っ赤に染めた。
ノアールによって散々高められて反応していた身体の変化は、ウルフの身体にも伝わっていた。
蠱惑的な微笑みにさらに接近されて、オスカーはシーツの上に仰向けに倒れ込んだ。
「――美しい花は眺めて愛でているのがいいのだろうが、どうしても手折って独占したくなる……。花盗人を誘う美しさは、存在そのものが罪なんだよ、オスカー」
その身体を覆うようにウルフは身体を重ねる。
正義の味方は、送り狼へと変身した。
「いやですぅ――っっ」
貞操の危機を感じて、オスカーは一瞬の隙をついてウルフの身体から逃れた。
船室から出ようとしたオスカーだったが、ウルフに追い詰められて逃げ場を失う。
壁際に追い詰められたオスカーは、それでも両腕を突っ張って、ウルフからのキスを阻止しようとする。
「いやっ!助けて。いやだあっっ!!」
涙目で抵抗を続けるオスカーは逆効果を煽り、ウルフを本気にさせてしまった。
「なかなかいい演出だ。土俵際の粘り強さを見せてくれるようだね」
オスカーの細腰を抱き寄せて、やる気十分な表情で迫る。
「ぼ、ぼくは、スモウレスラーじゃありませんよ」
脅えるオスカーは涙ぐんだままウルフを見ていた。
「オスカー……」
誘う視線と少し掠れた低音の囁きが、オスカーをゾクゾクと震わせて金縛りにした。
「――うっちゃるぞ」
「いやぁ――っっっ!!」
最後の抵抗がねじ伏せられ、オスカーはそのまま寝台に連れ戻された。
「何が……涅槃(ニルヴァーナ)だ。煩悩だけで行動してるじゃないか」
与えられる快感に逆らえずにいるオスカーは、それでも憎まれ口だけは欠かさなかった。
「きみはなかなか博学だね。……だが、煩悩を十分に満たしてこそ、涅槃楽に辿り着けるというものだ。ひとは満たされて初めて無欲になれるのだよ」
「そんな事言ってると、仏罰が……」
続く言葉をキスで塞がれたオスカーは。
初めて教えられる快楽の数々に、逆らいきれない弱さを見せる。
若く貪欲な欲望は、手慣れたウルフによっていとも簡単に堰を切られ、あふれる濁流のようにオスカーを呑み込んだ。
快楽に翻弄され朦朧とした意識の下で、オスカーは後悔にも似た痛みを覚えていた。
『摘まれてしまった……ぼくの花』
涙が零れ落ちて、シーツに小さな染みをつくった。
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