金獅子運送会社 金獅子運送会社21 「どうしたライアン?」 ランバート社が所有管理しているプライベートドックに、血相を変えて戻って来たライアンを迎えて、作業監督中だったマックスが驚いて訊ねた。 ライアンはすぐにオスカーの所在を確認したが「いや。おまえと一緒だったんじゃないのか?」と、事情を知らないマックスは呑気な様子で応える。 ライアンとミレイは、困惑した顔を向け合った。 そのとき、管理室からスタッフのひとりがやって来て、ライアンに緊急の用件を伝えた。 「ブリッヂに上がってください。社長宛に通信が入っています」 ライアンとミレイは、オスカーからのものだろうかと、すがるような気持ちでクラリオンのブリッヂ向かう。 不穏な雰囲気を察したマックスもまた、ふたりを追ってブリッヂへと向かった。 ブリッジのドアをくぐったライアンが即座に通信をつなぐように命じると、システムを管理していたジョゼが回線を開いて、フロントスクリーンに画像を投影した。 「──ああ、やっと繋がったのね。……はじめましてゴールデン.ライアン」 フロントスクリーンいっぱいに映し出された、豪華な黒髪の美女。 婉然と微笑むその姿は、禍禍しい程の美しさで皆を圧倒した。 その姿は、中世の女領主の肖像を思わせ、残酷な魔女の伝説を聞かされてもさもありなんと思う。 「わたくしは『黒の貴婦人』の首領、ノアール伯爵夫人と申します。お目にかかれて光栄ですわ」 落ち着いた低い声。 繊細なレースに飾られた、クラシックで上品な漆黒のドレスに身を包んだ女は、ライアンには見覚えが無い。 「大変申し訳無いが、こちらは今取り込み中だ。用件は手短かに願おう」 オスカーからの連絡ではなかった事に焦燥を感じて、ライアンは拒絶の態度を露にした。 「まあ。存じ上げませんでした」 女は同情を見せるかのように、作意的に表情を曇らせる。 「実は先刻。勇気ある美しい若者がわたくしを助け出してくれたものですから、そのお礼を申し上げたくて……」 美しい若者と聞いて、ライアンは自分が案じていた人物を予感した。 「この可愛らしい少年をご存じかしら?」 彼女は、後ろ手に縛られたオスカーを強引に引き寄せて、画面の中央に差し出しす。 「オスカァァァ────ッッ!?」 スタッフ一同は、目と口をあんぐりと開けて声を合わせて驚いた。 スクリーンの中のオスカーは、端正な顔を歪めて抵抗を見せながら、どうにも抗いきれないでいる。 「まあ。オスカー樣とおっしゃいますの。わたくしにはお名前も教えてくださらなくて‥‥困っていたところですのよ」 白々しいほど悩ましい表情を見せてから、女は真っ赤な唇の両端を持ち上げてニヤリと笑った。 「──何者だ……貴様」 ライアンの双眸が敵意を放つ。 途端に周囲の空気が、緊張して張りつめた。 「先程も申し上げました通り『黒の貴婦人』です」 ややしばらく、にっこりと微笑む女を見ていて、その正体をやっと思い出したマックスがライアンに告げた。 「そう云えば、最近売り出し中の盗賊団にそんなのがいた」 「……存じていただいていたなんて光栄ですわ」 女はクスクスと笑って恥じらいと喜びを見せる。 「船長!伯爵夫人なんて嘘ばっかりっっ!!オカマだよこのひと!!」 女に拘束されるオスカーが、拘束から逃れようと身を捩りながら、悔しそうに叫んだ。 まんまと騙された自分に、腹が立って仕方がない。 「オカマ?」 一同唖然とする。 「──お黙り!」 スクリーンの中の女が、突然気分を害したようにムッとしたかと思うと、彼女の上体が軽く揺れた。 オスカーが突然前かがみになって呻く。 状態から察するに。 女の膝蹴りがオスカーの身体に見舞われたようで、これは穏便に済みそうもないと、ライアンは直感した。 「何が望みだ」 ライアンが訊ねると、女は艶然と流し目を送って応える。 「あなたが持っている、そのデカい逸物をわたくしに捧げてほしいわ。ライアン」 ブリッヂの一同は、赤面しながら唖然として、ライアンの股間を凝視した。 その沈黙を破って、驚いたライアンが叫んだ。 「──お……俺の身体が目的かっっ!?」 [後#] [戻る] |