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金獅子運送会社
金獅子運送会社19





「今夜は商売っ気抜きか……」

店主は苦笑いしながらグラスを磨き始める。

オスカーは、なんとなく理解できないままで、ライアンに疑問を向けた。

「お友達ですか?」

きょとんとしたままのオスカーを見て、ライアンは珍しく意味深にニヤリと笑った。

「あの娘はここで一番の歌姫であり娼婦でもある。ここはドライバーが癒しを求めて立ち寄る場所。……まあ、つまりはそういう事だ」

娼婦と聞いて赤面するが、それだけではウブなオスカーに事情は通じなかった。

「どういう事ですか?」

「ティナはミレイに惚れてる。商売っ気抜きってのは、そういう意味だ」

信じられないが、事実は目の前で展開された。
オスカーは混乱した。

「──ふたりとも女性です」

「何か不都合でもあるのか?」

至って真面目に返すライアンの様子から。
オスカーは、やっと事態を飲み込んで理解した。

「船長はそういう事に寛容なんですね」

「個人の自由だ。他人に迷惑をかけるわけでもなし……」

我関せずといった表情で煙草を吸うライアンを見て、オスカーは少しだけ嬉しそうな顔をして訊ねた。

「船長は女性と男性、どちらが好きですか?」

オスカーの突然の質問に、ライアンの動きが一瞬ピタリと止まった。
煙をゆっくりと吐き出して真面目に考え込む。

バイオレンスな日々を過ごして来た自分には、恋愛をするような余裕など無かった。
女性を抱く事はあっても、それはあくまでも自己コントロールのための事で、甘い感情が伴っていたわけではない。

マックスの指摘があったばかりで、何だか自分でもよく分からなくなっていた。

「おまえはどうなんだ?」

ライアンはオスカーに返して問いかけた。

自分と同様の環境に身を置いているオスカーの在り方が気になる。

「ぼくは、初めて好きになったひとが船長だから、よく分からない」

「ふ〜〜ん……」

あまりにも自然に返されて、一瞬聞き流しそうになったが、ライアンはその言葉の重さに気づいた。

そして、改めてオスカーを意識して見たとき、突然大勢の武装した男たちが店内に踏み込んできた。

高い天井の照明に向かって発砲して、フロア全体を恐怖に陥れる。
賊と思われるその集団は、口々に暴言を吐いて威嚇しながら店の中に侵入し、次には店内の客に向かって発砲した。

テーブルでカードに興じていた客が三人。
命乞いをする間もなく。
複数の銃声と共に、風に煽られる紙屑のように、椅子から弾かれて崩れ落ちた。

床に投げ出された身体を中心にして、フロアにじわりと血だまりが広がる。

一瞬の静寂の後、女の悲鳴と共に、店内はたちまち銃声と怒号と悲鳴が渦巻く地獄絵図と変り果てた。

「オスカー来い!」

ライアンはオスカーの後ろ襟を攫んで、そのまま抱きかかえてカウンターを乗り越えた。

「何者だ?連中は……」

カウンターの下に隠れて店主に確認してみたが、店主は動揺したまま状況が掴めないでいる。

目的など皆目見当もつかない全くの不意打ちで、この店は初めて襲撃に遇ったらしい。

相手の正体が分からないままだが、野放しは危険だ。
まずは制圧しなければならない。

ライアンは、カウンターに背を向けて身を低くしたまま、ホルスターから銃を抜いた。

その時、銃弾に追いたてられるように、ひとりの男がカウンターを飛び越えてやって来た。

キャビネットのウイスキーボトルが、派手な音をたてながら弾け飛んで、鼻腔を刺激するアルコール臭を辺りに撒き散らす。
四散したガラスは容赦なくライアンたちに降り注いだ。

咄嗟に銃口を向けたライアンに対して、飛び込んできた男は何も手にしていない両手を掲げて、敵意のないことを示して見せた。

「何だ一体?……ここの連中は」

無秩序に暴れる暴漢たちの好き放題に遭遇して、呆れた表情で呟いたその男は、銀狼株式会社社長、ウルフ・アーバインだった。
穴が開くほど自分を凝視してくるライアンに、破顔して向き合う。

「よう。金獅子の……」

想い焦がれていたウルフと、こんな所で再会できるとは思いも寄らなかった。
ライアンは図らずも赤面して、銃口を逸らす。

「奇遇だな。また逢えて嬉しいよ」

ウルフは、黒革のジャケットの懐から銃を抜いて、ライアンに微笑みを向けた。

そんなウルフは、地球で会った時とは印象が違って。
深い艶のある大人の男の色気を、溢れんばかりに湛えていた。

黒革のズボンが、腰から脚にかけての形良いラインを強調して、都会的な魅力を感じさせる。
そのくせ、自然のままの長い前髪が野性的で、『狼』の名が彼に相応しいと思う。

男に色気を感じるのはおかしいと思いながら。
逢えて嬉しいなどと微笑みを送られて、ライアンは状況もわきまえずに、自分の胸が心地よく疼くのを感じていた。

「スーツもいいが、そいつのほうが似合っているな」

ウルフもまた、カウンターの向こうの喧騒とは無縁な次元で、ライアンのスタイルを見て微笑んだ。

ベージュのウエスタンシャツに、履きこなして色褪せたデニムのパンツ。
足元には、繊細なステッチで飾られたウエスタンブーツ。
肩から被っていた外套も含めると、まるで西部開拓時代のカウボーイのような服装で、そんな服に身を包むライアンも以前の印象とは随分と違う。
長い豊かな金髪も『獅子』の名に相応しい。

好意を寄せる視線を向けられて、ライアンはまた頬を染めた。

オスカーの第六感がそんなライアンの心理を察して、なんだか面白くない感情に包まれる。
だが、今はそんなジェラシーに身を委ねている場合では無かった。

「やるか?」

ウルフはライアンの銃を見て、意志を確認した。

「ああ」

ウルフを見つめてライアンは頷く。

「よし……行くぞ!!」

「よっしゃっっ!!」

オスカーの燻るジェラシーをよそに、ふたりの男は血気盛んにカウンターから飛び出して行った。


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あきゅろす。
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