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金獅子運送会社
金獅子運送会社17



心の奥まで覗かれているような視線を向けられて、ライアンは図らずも赤面した。
ブラザーコンプレックスが高じた結果が予測できるだけに、マックスはなんとなく嫌な予感を覚える。

「まさかおまえ」

まるで似合わない表情がマックスを確信に導く。
マックスはライアンに迫った。

カップを手にしたままのライアンは、マックスの勢いに圧された。

「銀狼に恋したってんじゃないだろうな?」

「えっ?」

云われた本人も驚いた。
だが、否定が返ってこない。
ライアンは赤く、マックスは蒼白になった。

「そんなんじゃない。恋だなんて……そんな……」

広い肩を震わせて、大きな手のひらで赤くなった頬を包む。
その恥じらいのポーズはマックスを逆上させた。

「頼むから止してくれ!余すほど女が寄ってくるおまえさんが、なんで男にハシらなけりゃならないんだ!」

ライアンはマックスの視線から逃れるように立ちあがって、テーブルに向かってカップを置いた。
マックスの洞察に狼狽する自分に気付いて、さらに動揺する。

「銀狼が兄だったら……。そう思っただけだ」

「よけい気色悪い。いい年して、その感性は間違っている」

「間違い?」

「男が男を兄貴と慕うってのはなあ…………なんかアブないぞ」

マックスは言葉をためらい、いささか緊張したように赤くなって指摘した。

「俺は別に、何かを望んでいるわけじゃない」

マックスの意見に真っ向から否定してかかる。

しかし、もし本当に兄だったとしたら、自分はどうするのだろう。彼に、何を求めるのだろう。
事故で亡くなったはずの兄が、記憶を失ったまま家から遠ざかっていながら、進むべき道を歩んでいた。
そんな兄との人生を取り戻して、共に仕事が出来れば……。
そんなふうに想うだけで、ライアンは甘い感情に包まれた。

「ただ……傍にいてくれたら……」

そんなライアンの告白は、のけ反るマックスを椅子ごと転倒させた。

「それじゃあまるっきり」

マックスは何か異様なものを見るような目付きでライアンを見上げた。

「自覚のないプラトニックホモじゃないか」

「『ホモ』言うなっっ!!」

ライアンは嫌な指摘を受けて逆上した。

「じゃあおまえはなんだ?生身の人間を愛せない人形性愛者で、しかも美少女趣味じゃないかぁっっ!俺よりずっと変態だぞ!」

「なんだと──っっ!?」

口論たけなわの折、ドアが閉まる音がした。
ふたりが恐る恐る振り向くと、そこには驚きの表情を見せてふたりを見つめる、長い亜麻色の髪の美少女が立っていた。

あふれんばかりにレースで飾り付けられたクラッシックなワンピースと、同素材のヘッドドレス。
厚底の編み上げブーツまで全身白で統一され、地球のヨーロッパ王朝時代の貴婦人を彷彿とさせる服装は、マックスの伝統回帰趣味とロマンティシズムをダダ洩れさせ具現化している。

「──キャンディ……おかえり」

買い物袋を下げた少女を見て、マックスは赤面する。

「久しぶりだね、キャンディ」

ライアンもなぜか、普段言いもしない挨拶などを口にする。
当然ばつが悪い。

ふたりは、自分たちの会話を聞かれてやしないだろうかと、冷や汗をかいていた。

マックスが自作した、愛するアンドロイドであるキャンディの学習能力は人間に近く、下手に余計な事は教えられない。

「どうしたの?ケンカしたの?」

あどけない表情で訊ねるキャンディを前に、ふたりの男は狼狽していた。

「いや、俺たちは友達だから。ケンカなんかしないよ」

苦し紛れにライアンの肩を抱いてごまかすマックスの笑顔は引きつっていた。

「──ねえハカセ」

ぱっちりと青く透き通った瞳を見開いて、小首をかしげるキャンディはマックスに向かった。

「ホモってなあに?」

訊ねるキャンディの質問を聞くや否や、ライアンはふたたび逆上して、キャンディのワンピースの胸元を締め上げた。

「ハナっから人のハナシ聞いてたんじゃないか!このガキロボットがっっ!!」

「いや──っっ。ケダモノっっ!!」

「やめんかライアン!!」

キャンディを奪取して抱きしめるマックスを見て、ライアンは呆れた。

「やっぱり変態はおまえの方だマックス。血の通わない人形遊びしか出来ない野郎に何が分かる」

「兄に懸想する男の方が異常だ。俺は少なくとも異性が対象なんだ」

「なにが異性だ。そんなカタチだけなのは女装趣味と大差ないだろう」

「なんだと──っっ!?」

長い付き合いであるふたりの小競り合いは毎度の事だった。
いい加減そのパターンを学習したキャンディは、応用してさらにふたりを煽る事を覚えていた。

「ハカセは変態で社長は異常なの?」

キャンディの一言は、男たちの戦意を萎えさせるに十分な効力を発揮した。


[*前]

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あきゅろす。
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