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宗介X要 鈍いと言う名の無知
いつもと同じぐらいの激痛。嫌いつもと違って、力と気持ちがこもった頬への衝撃だった。

「痛いじゃないか?」
決まり文句になっていただろうその言葉を、彼女は遮った。
「嫌い、宗介なんか」

反論する事をさせないその言葉と、彼女の後ろ姿を彼はつっ立ったまま見送った。
見送った?
いや彼の目は、ぼんやりと正面のフェンスを見ていて、ただジンジンとした頬に手をそえていた。
そんな、夏の青空の下だった。
ふと、太股がぶるりと震えたかと思うと、彼はポケットから取り出し通話ボタンを押した。
「こちらウルズ7……了解した、すぐに向かう」

事務的にそう応答した後、電話を切り彼は屋上をあとにした。

基地に着くと、メリッサマオがいるであろうオフィスに向かった。
二人は並んで座っていた。
宗介の机は、まるでゴミ溜めになっていた来ては、てきぱきと片付けで鞄を置いた。
目線だけの挨拶。
クルツはふんずり反って仮眠中だった。
「マオ、演習は?」
「ちゃんとあるわよ、はい」

紙の束を渡されると、一通り目を通した。

『演習報告書〆切は土曜まで、今日やって明日か通常だな』
「了解した」
「集合には遅れない様に」
「肯定だ」
部屋を出て行こうとする宗介を呼び止めた。

「宗介、あんた顔色が悪いわよ、悩んでる事があるなら」
「大丈夫だ、少し仮眠を取って来る」

考えがなくて、その申し入れを断った訳じゃない。

『マオに相談した所で、今の状況が変わるとは思わないし、上官に分け隔てなく話せる話題でもない。
クルツにはいつも世話になってはいるが、いつも冗談まがいの返事しか返ってこない』

宿舎の部屋に入って、ドサっと寝転び眼を瞑った。
余計な時間があるから、考えてしまうんだ。
宗介は珍しく、寝る努力をした。
でも暗くなった目の前に浮かんで来るのは、要のあの顔だった。あの空ににつかわしくない、曇った顔は雨寸前だった。

「分からん……」
コンコン
「はい、……大佐殿」
「お休み中でしたか、久しぶりにこちらに帰って来られたのでお話でもと思ったのですが……」

「どうぞ。いえ。ここではなんですから食堂でお茶でも飲みませんか?」
「そうですね、では」
「行きましょうか」

テッサは紅茶を、宗介はコーヒーをホットで頼んだ。

「学校はどうですか?」
「順調です、学校備品の誤っての破損も減っています」
「その様ですね、相良さんも学校に慣れて来たと言う事ですね」
「そう取って頂いて支障ありません、ですが」
「えっ何か問題でも?」

『テッサに話せばきっと、要の事と分かれば不機嫌になり、あのオーラをまとうだろう。それだけは避けたい』

「いえ。お気になさらず、私の問題です」

「……私では力不足でしょうか?」
「いえ、そのようなことは」
「いいんです、私は相良さんとお喋りしたいだけで、貴方を困らせたい訳じゃないから……」

クルツに相談すると
「そりゃ、怒るだろ?!」

「どうしてだ」

「気になってる奴が、他の奴の告白の伝言なんて言ってたらさ」

「……」
「つまり宗介はこう言った訳だ。
屋上に要を呼び出して
『君が好きだ、付き合って欲しい』
ここまでで終わって置けば要は怒らないさ。
その後が問題だ。
『と、二組の佐藤に言ってくれと頼まれた』
なんて有り得ないぞ」

「頼まれて、伝えたまでだったが……酷く罵られた」

思い出してシュンとなる宗介に、クルツははっきりと言ってやった。

「要はお前の事、異性として好きなんだよ。だから一瞬お前からのm思いもかけない告白だと思ってm裏切られた要の気持ちは分かるな?」
「……」
「あーくそ、つまり要は、お前が好きって事だ」

「……そうか。そうだったのだな。千鳥はとても悲しい顔していた、そうさせたのは俺と言う訳だ、よし!電話をかける。」
「あっちは夜中じゃないか?」
「では、五時間後、電話する事にする」
「うまくやれよ」
「ああ、すまなかった。クルツこんな相談を」
「いいさ、それより電話するまで付き合えよ。飲まなくていいからさ」
「うむ。マスター牛乳をくれ」



ぷるるる
ぷるるる
呼び出し音が鳴る。
「はい」
「千鳥か?こちら宗介」
「何か用?今、10分休憩であんまり話してる時間ないんだけど」
「分かった、用件だけを言おう。この間はすまなかった。君が俺の事を異性として好いてくれてるとは、知らなかったものだからな。許して欲しい。正直伝えようか迷っていたんだ。……頼まれた時に、妙な気持ちになってな。正直君が、誰かと歩いているなんて想像したくなかった、すまない。そっちに帰ったらまた話す。ではそれだけだ」


「うん、気を付けて帰って来てね」

「分かった、電話に出てくれて感謝する。君に拒否されるのは、非常に悲しいからな」
「じゃあね。ちゅんと帰って来るのよ」
「分かっている」

電話を切ると、何だかどっと疲れと寂しさが同時に来た。
「千鳥……」
やけに彼女の事を考えている自分が、いるからだ。
このままでは、演習に集中出来ないなと思って宗介はアーバレストに乗っていた。
演習内容は、敵と仮定した期待からの長距離射撃からラムダドライバを使って動かずに回避出来るかというものだったが、今の精神状態でラムダドライバが使えるとは思えなかった。
二、三度の辛うじての回避、指令メールが入った。

これより演習を中止し、ウルズ267はそのままヘリとドッキング。
テロ鎮圧に向かえと言うものだった。
ヘリの中で事件の全貌と鎮圧に向けて、それぞれに指示が出される。
所要時間は十分。人質収容五分。

いつもの事なので、造作もない事だ。約一名を除き。


「宗介、あんた大丈夫なの?」
「問題ない」
「ホントかよ、要ちゃんに電話してますます落ち込んでないか?お前」
「電話はした、無事に帰って来いとも言われた」
「問題は解決したのか?」
「肯定だ……」

『??』

「少しだけな」

ぼんやりしている時に、事件は起きるもので最悪の方向へ進んだ。
ラムダドライバも起動出来ない中、宗介に敵ミサイル直撃。
アーバレストは宗介と共に、何もせずに基地に戻された。
宗介は二日眠ったままだった。



基地のベットで目覚めると、頭がグラリとした。

『死ななかったか……、いや死ねなかった』

点滴を引きちぎり、服を着替えた。
通路でマオとクルツに会った。
感激で抱きつかれて、同時に殴られた。

「いつものお前なら、あんなの避けれてたはずだろ?」と「ロックオンされたってアルも警告してたんじゃないの?」

「すまない、話は後で聞く、大佐殿に話があるんだ」

「あちらさんもお前が目覚めたら、連れて来いって言ってたぜ」
「……罰は甘んじて受ける」
マオとクルツは、宗介の後を心配してついて行く。
だが部屋の前で止められて、宗介が部屋の中に消えて行くのを見た。
部屋には、カリーニンとその横の椅子に、テレサが座っていた。

「軍曹、資料だ」
カリーニンから手渡される。
「貴方の処分についてです、目を通して下さい」

『今回の破損、アーバレストの胸部-一ヶ月の修理を有する。相良宗介軍曹-一ヶ月の基地謹慎の後、要千鳥の護衛として東京のセーフハウスに帰還。
以上、なお損害分は給料から分割で天引き』
「!!!、どういう事でしょうか?」

「書いてある通りです。質問は受け付けません」
「では、お願いがあります」
「聞くだけ聞きましょう」

「……要千鳥の護衛から外して下さい」
「相良」宗介は、テレサの言葉を遮った。

「今回の一件は、自分の責任です。
自分は任務中、私的な事を考え集中せず攻撃にあった。その事で、味方を危険にさらしてしまった。
今回の件で、決めた事があります。
要千鳥の護衛は、情報部に任せ、私はラムダドライバが完全に使える様に精進し、その上で護衛が出来ると判断された場合、要千鳥の護衛の任に改めて付きたいと考えています」

「成程、いい結論です。相良さんの処遇をどうするかどうかは一ヶ月後改めて知らせます、以上です」
「ご検討、宜しくお願いします」

そして一ヶ月間、宗介は千鳥に連絡も取らずただアーバレストの修理過程をじっと見ているだけだった。


「どうしたらお前を乗りこなせるんだ、アル。¥」

宗介はぽつりとAIの名前を呼んだ、そのままぼんやりとアーバレストの白い機体を指でなぞっては考え込んでいた。

「宗介!」

格納庫の入り口の方で、マオの声がした。
「何か用か、マオ」

「時間遅れるわよ、テッサの出迎え」

「しまった!!」

でも、何故出迎えなど行かなければならないのか?
ただ3日程の休暇を終えて、帰って来るだけだろう。
分からんこの任務の意味が……

『俺はこんな任務にさえも逆らえないのか?』

到着すると、ヘリがこちらへ向かって来る所だった。
大佐が戻って来ていると言うのに、出迎えは宗介一人だった

『どういうことだ、まったく』

宗介は、そんな疑問を無表情のへの字口の下に隠して、テレサが降りて来るのを手助けした。
まるで馬から降りるお嬢様をエスコートする執事の様に、二人は絵になっていた。

「ご無事のご帰還何よりです、大佐殿」

「待って下さい。相良さんもう一人、エスコートして下さい」
先ほどの入り口に仁王立ちで、手すりをぎゅっと持っている彼女がいた。足はすらりと長く、髪は黒く艶をおびているモデルと言ってもいいだろう。
ずっと謹慎していた宗介にとって、彼女は眩しかった。
いや彼女は常に、宗介の目には光だった。

「千鳥」

あまりの驚きに棒立ち。
エスコートなど持っての他で、宗介は相手の顔をぼんやり見ていた。
たった数秒間、激痛が激しく頭を叩いた。

「何ヘタレを演じてんのよ、ソースケ」
「ヘタレ?」ずびし、ハリセン投下。

「そうよ、いつものあんたはどうしたの?何があっても、問題ないって言ってたあんたは?
私に叩かれてなにも言えない訳?」

「……、千鳥すまない」

「すまないと思うなら、やることやりなさいよ!?」

長い間があって……

「そうだな、そうしよう」

「??」

その場にいた千鳥と、テレサは顔を見合わせた。
たった今まで泥ネズミみたいな顔をしていた男は、真面目な、いや猛々しいと言った方がいいだろうか?
今にも襲いかかってきそうな勢いだった。
スッと立ち上がった宗介を見て、千鳥は妙な恐怖に襲われそうになっている様に感じたが、宗介の瞳から目をそらさなかった。
そんな彼の口から出た言葉は

「千鳥、好きだ」
だった、兎の様に耳を立ててつっ立っている二人を見て不審に思ったが、宗介の心の中には次のミッションが名を連ねていた。
「大佐殿」
「はっはい」
「謹慎は昨日でとけていますので、私は今からアーバレストの演習に入りたいと思いますがよろしいですか?」
「どうぞ」
「ありがとうございます、所で千鳥、今後の予定は?」

「えっ、あんたに会いに来ただけで、明日の朝帰る事になってるけど……」
「そうか、では暇なのだな、釣りに行こう!演習が終わったら迎えに行くのでそのつもりでな。
では大佐、殿千鳥を頼みます」


宗介が演習で、成果を上げた事。
要のハリセンが炸裂した事は、言うまでもない。



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あきゅろす。
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