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*V
「暇なんでしょ。もうすぐ曲が始まるから」

「その声…―――って、魔法使いさん!?」

「煩い、大きな声を出すな。ほら行くよ」

「あ、あの…っ俺ダンスなんて踊れないし、そもそも男なんですけど…!」

「…そんな細かいこと気にしてるから背も伸びないんだよ」

「な…っ」



(なんなんだこの人、感じ悪…!さっきはすごく優しかったのに!)

っていうかなんでこの人が舞踏会にいるんだ?関係者かなにかだったのかな…。
仮面をしているからよく顔が見えないけど、あの綺麗な顔立ちと声は間違いなく魔法使いさんだった。



「うひゃぁ!」

「僕の肩に手を添えて」



突然腰をがっしりと掴まれて引き寄せられた。
その衝撃で魔法使いさんの胸に鼻をぶつける。結構痛い。





そしていつのまにか俺達はダンス会場のど真ん中に居座っていた。





「俺本当に無理ですってば!一度も経験ないし、俺なんかと踊ったら絶対恥ずかしいですよ!あ、足も踏んじゃうかもしれないし…っ」

「僕に身体を預けておけばいいよ。笑った奴は咬み殺すし」

「か…咬み…?」

「あ、曲が始まった」



俺は手をぎゅっと握られて半ば強引にリズムに乗せられた。

(近い近い近い近いよ…!また鼻がぶつかるっ…、…な、なんでこうなったんだぁぁぁ…!)



周りからはどう見えているんだろうか。男同士でダンスなんて聞いたことがない。しかも俺は今日が初めてで、本当ならこの場に来れなかった筈の人間だ。




…そういえばお兄様たちはどうしたんだろう。




このお城のどこかにいるのかな。だとしたら俺達のことを見物しているかもしれない。
…それって結構やばくないか…?





「…っと、ご、ごめんなさい…っ」



案の定、俺は思い切り足を踏んでしまった。



「気にしなくていい。―――それよりも、顔を上げてちゃんと僕を見て。相手を見るのはダンスのマナーだよ」

「えっ…でも…」

「その方が踊りやすいから、ねぇ」



そう言われて俺は恐る恐る顔を上げた。
すると魔法使いさんの綺麗な顔が超間近にあって吃驚して変な声が出た。



「ひぃ…!」

「…ちょっと、なんでそんなに怯えるの…」

「ち、違…、怯えてるんじゃなくて…その、だから…えっと…っ」



(恥ずかしくて見れないよー!無理!心臓止まる…!)

死因がダンスだなんて洒落にならない。
ごめんなさい、そう言って再び下を向くと頭上からあ、と何かを思い出した声が聞こえた。



「言い忘れてたけど、その魔法―――」

「へ?」

「0時になると解けるから」



はぁと曖昧な返事をしてなんとなく大時計に目をやった。
短針は11時を、長針は30分を指していた。

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あきゅろす。
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