*X
「きゃああああああああああああ!汚いわね!誰なのよぉぉぉぉ…!」
「わ、わりぃ…。ちょっと腹壊しちまって…。うぷっ…」
「ここで吐くなよクソッタレがあぁぁぁ!つかてめぇ王子じゃねえか!」
予想していた痛みが降ってくることはなく、代わりに動揺するお兄様達の声が聞こえた。
恐る恐る目を開けるとそこには、今にも倒れそうなほどフラフラしている王子様。
「あ、あれ…?なんでここに…」
「いやぁ、なんか昨日から腹の調子が悪くてさ。しかも人酔いもしたっぽくてさっきから…気持ち悪い、んだよな…。う…っ」
口元を手で押さえながら説明する様子は、とても立派なお城の王子には見えなかった。
「チッ、それでも王子かカスがぁ!おい行くぞ!」
「そうね…。これはちょっと耐えられないわ…」
「仮にも王子だからね。危害は加えられないよ」
そう言ってお兄様達は去って行った。
残された俺と王子の間には沈黙が流れる。
(と、とりあえずこの人のおかげで助かったんだし…。っていうかこの人大丈夫なの!?)
「あの…、大丈夫ですか?肩貸しますよ」
「え?あぁ、悪い…。ありがとな」
「いえ―――…って、やべっ!忘れてた!」
(何やってんだ俺!時間がないんだってば!魔法が解ける…っ)
「ごめんなさい、やっぱり無理です!自力で歩いてください!じゃっ」
「えっ、ちょっとま…」
俺は再び全速力で走り出す。
そして気付かなかった。
お城に忘れ物があったことに―――。
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