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■隠しても無駄だよR15
※燐雪
※露骨









悪魔になった特権…よく言えばそんな感じだ。だけど逆に言えばいい迷惑。
俺は普通の人より物事を敏感に捉えてしまうようになった。勘も鋭くなったし、耳はどんなに小さな音でも拾い、鼻はするかしないか分からない微かな香りでさえ掬ってしまう。
祓魔師としては役に立つ能力なのかもしれないが、日常生活…特に寮ではとにかく邪魔で仕方ない。






「―――ん、…さん……兄さん」

「―――…んんー…」

「全く…最近授業中も寝てばかりじゃないか。しっかりしてよ」



頭上から雪男の説教じみた声が聞こえる、そのすぐ後に何か硬いものでゴツンと頭をやられた。
突然の痛みに耐えながらも顔を上げると目の前にあったのは本の角…どうりで痛いわけだ。



「いってぇな!何すんだよ…っ」

「僕の授業を聞く気がないなら教室の後ろで立っててもらうよ。真面目に受けている人の迷惑になるからね」

「はぁ?元はと言えばお前の所為でな―――」

「まあまあ、きっと燐も疲れてるんだよ。だからそんなに怒んないであげて、雪ちゃん」



しえみに宥められてやっと冷静さを取り戻す。雪男もすいません見苦しいことをしました、なんて言って再び教壇に戻って行った。
俺はズキズキと鈍い痛みのする頭に手をやり、グシャグシャと髪を掻き回した。



「悪いな、しえみ」

「ううんっ、余計なことしちゃってごめんね」

「いや、助かったぜ。サンキュ」

「でも確かに最近燐ってばよく寝てるよね。寝不足なの?」

「んあ?んー……まぁな」



(そうだよ、雪男の所為で俺は…)

聖書を片手に持ちながら授業を進める雪男に目をやる。昔から真面目な性格だったが、この学校に来てからというものさらに堅苦しくなった気がする。
いつも切羽詰まってるというか、無理してるというか…明らかに年齢には相応しくない労働のおかげで、あいつの得意な愛想笑いも最近ではまともに出来なくなっている。
きっと娯楽なんて程遠いのだろう。



(…だからあんなことすんのかな…)



数日に一度の雪男の行動、俺が気付いていないとでも思ってんのか?バリバリ気付いちゃってますよ!このメガネが!
きっと今日も…うん、だろうな。



「どーしろって言うんだよー…」



俺はボソッと小さく呟いて、再び机に寝転んだ。











「兄さん、さっきはごめんね。ちょっと苛々してて…」

「お、おう。俺も悪かったな…その、もう居眠りなんてしねーから」



寝る直前、雪男の方から塾でのことを謝ってきた。
これだから雪男を嫌いになれない。憎めないやつ…まぁ嫌いになんてなるわけねぇけど…。



「今日はもう寝ようぜ!明日も早いんだろ、おやすみっ」



俺は半ば強引に会話を遮り、布団に潜り込んだ。
背後からは小さなおやすみの言葉、電気の消えた部屋には一瞬で静寂が漂った。自分の心臓の音だけがやけに大きく聞こえる。
今日もいろいろあった、疲れた…そのはずなのにこれから行われるであろう行為を目前にすると、身体は易々と眠りについてはくれなかった。

(だーっもう!俺は寝る!布団被ってんだから大丈夫だ!つかマジで寝ないと明日も居眠りしちまう…っ)

頭の中で無理矢理羊の数を数える。幼い頃はよくジジイに数えてもらっていた。
十数匹目にはうとうとしていたあの頃の自分が羨ましい。今では眠気はまるで俺を避けるように通りかかってもくれない。



「……兄さん?」



雪男の声にビクッと肩が揺らいだ。しかし意地で狸寝入りを続ける。



「…もう寝たのか…」



(寝てねーよ…バッチリ起きちゃってますよー…)



暫くの沈黙。時々聞こえる衣擦れの音―――ほら、今日も隠れてやってる。

聞こえるか聞こえないかの僅かな物音、普通の人なら聞き逃す音を俺の耳はいとも簡単に拾ってしまう。


雪男はいつからか、俺が寝た後に一人でするようになった。
あれだけ働けば疲労もそっちも溜まりやすいのだろう、頻繁にその行為を耳にする。
別に俺も男だし、隠れて抜きたい気持ちは分からなくもない…だけど問題はそこじゃない。



「…ぁ…っ…兄さん…」



(ちょ…っ、あいつ声…ヤバッ…)

―――なぜか俺を想像して…らしい。おかげで気になって寝れたもんじゃない。



「ん……っ…はぁ……ぁ」



雪男は必死に声を我慢しているらしいが、悪いけど丸聞こえ。隠しても無駄だよ…そんな甘ったるい声出されたら気になるに決まってる。

(男想像してとか…しかも兄弟)

俺は今まで雪男に対して兄弟以外の感情を抱いたことはなかった。だから初めて聞いた時は衝撃的だった。
けどもしかして、雪男は―――






「…兄さん……好き、」



「っ…!」






ドクンと胸がざわめく感覚。気付いた時にはベッドから抜け出し、雪男の方へと歩みを進めていた。



「え…………兄さん?」



潤んだ瞳、火照った頬、震える声…どう見ても誘ってるとしか思えない。
俺は雪男の驚いた表情を余所に、ベッドに膝をつき無理矢理布団を捲った。…まぁ予想通りの光景。


どうして俺はこんなことをしているのか自分でも分からない。

だけどこの声をもっと聞いてみたい、そう思った。



「なぁ、手伝ってやるよ」


END


初燐雪でした。覚醒した燐を書きたくてこうなった…
R指定にするかどうか迷ったのですが一応…。どっちかって言ったらシリアスな筈(笑)

ありがとうございました!


2013/1/13

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