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□あの双子のように
例えばの話。
もしもこの人が僕から離れていってしまったら、僕はどうなるんだろう―――なんて考えてみたこともあった。









「雪男!早くしねーと終わっちまうぞ!」



数メートル先から聞こえる興奮した兄の声。
真夜中の静かなオンボロ学生寮には、その覇気のある通った声がやけに大きく響いた。



「そんなに急がなくても星は逃げたりしないよ」

「だって早く見たいんだよ!流星群なんて久しぶりだしさ」



そう言って兄は最後の階段を1段飛ばしで上り切った。僕も少し遅れて寮の最上階に辿り着く。
本当は広い屋上や開けた場所で見た方が綺麗に見えるんだろうけど、とっくに就寝時間を過ぎている夜中の2時ではこの場所から窓を開けて見るしかなかった。
屋根の上は雪が積もっていて滑りやすいから危険だという理由で却下。



「おおーっ、さみぃぃぃぃ!」



鈍い音を立てて窓が開く。と同時に冷たい空気が頬を撫でた。



「だからマフラーくらいしろって言ったのに」

「だな…。思ってたより暗いし寒いし…でもほら、すげー綺麗だぜっ」



兄さんが空を指差しながら牙を出してニカッと笑った。白い息と赤くなった鼻が幼いころに戻ったような感覚にさせる。

僕は小さな溜息をついてゆっくりと顔を夜空に向けた。そしてはっと息を飲む。





「…っうわぁ…!」





思わず間抜けな声が漏れる。だけどそんなことを気にしている余裕なんて今の僕にはなかった。

幻想的―――とでもいうのだろうか。吸い込まれそうな満点の星空には、無数の星くずがキラキラと散りばめられていた。
まるで宝石のようでもあるし、幻のようでもあるし、兄のようでもあると思った。



「な、な?すげーだろ?しかも今日の流星群は゛ふたご座流星群″って言うんだ。俺達にぴったりだよな」

「…兄さんがそんなこと知ってるなんて、誰かに聞いたの?」

「そうじゃねーよ!ちゃんと自分で調べたし、それに昔も見ただろ、こうやってさ。まぁあの時はジジイもいたけどな」



そうだっけ、僕は曖昧な返事をして再び星空に目をやる。
兄さんが今回乗り気だったのかその所為か。
いつもなら眠いと言ってすぐに寝てしまう兄さんが、僕を叩き起こしにきた時は何事かと思ったけど…。
確かに、僕達にぴったりだ。





「「あ」」





空を跨った一筋の光。僕らはほぼ一緒に同じ場所を指差して目を輝かせた。



「今の見たか!流れ星だったよな、すごいでかいやつ!願い事言うの忘れたー…」

「見たけど…本気で願うつもり?一瞬だよ」

「雪男は夢がねーなぁ…。叶うかどうかなんて分かんねーだろ。せっかくふたご座流星群なんだからさ」

「…そうだね」



僕が笑うと兄さんも笑った。そしてまた流れる星を見つける。






(さっき兄さんは自分で調べたって言ってたけど…じゃあこれも知ってるのかな)



ふたご座になった双子、カストルとポルックス。兄のカストルは人間で、弟のポルックスは神に近い存在で不死だった。
自分とは違って人間であるカストルはいつか死んでしまう…それが嫌だったポルックスは自分の不死性を兄に半分分け与えた。



(僕達は…兄さんは悪魔で僕は人間)



立場は逆だけど、本当にそっくりじゃないか。






「雪男は何て願うんだ?」

「…兄さんには内緒」

「げー、何でだよ」



言わないよ―――言えないなんて。









例えばの話。
もしもこの人が僕から離れていってしまったら、僕はどうなるんだろう―――なんて考えてみたこともあった。
僕達のこの関係でいつまで一緒にいれるのかなんて分からないけれど…


あの冬の夜空に輝く双子のように、いつまでも隣で笑い合っていられたらいいな。




そう僕はこっそりと、兄さんという星に願った。


END


今日はふたご座流星群ピークの日でした。
甘めシリアスを目指したつもりです…。ちなみにふたご座です。いえい←

ありがとうございました!


2012/12/13

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