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□やる気スイッチ
「なぁ雪男―、これ教えてくんねぇ?」

「少しは自分の力で解かないと力がつかないよ」




雪男は俺の目の前を素通りして、隣に座っているしえみの質問に答え始めた。
俺にはああ言うくせに、しえみにはこれでもかと言うほど丁寧に教えている。しえみだけに限らず他の奴等にもそうだ。

それなのに俺だけ素っ気ないって言うか、冷たいって言うか…。


(つまんねーの。そんなに俺は救いようがないってか?)


そう言われているようで少しだけ傷つく。
俺だって自分が塾で一番成績が悪いって知ってんだよ。だったら尚更教えてくれたっていいじゃねぇか。





「燐っ、雪ちゃんってすごく分かりやすく教えてくれるよね」



しえみがふにゃっと笑って話しかけてきた。
肩に乗っているニ―ちゃんも同時に鳴き声を発する。



「ニ―ニ―ッ、ニ―!」

「ほら、この子も雪ちゃんの授業好きだって」

「んー…………寝る」



俺は机に突っ伏して無理矢理会話を遮った。しえみの不貞腐れた文句が聞こえたけど、それも無視した。
実際には全く眠気なんてなかったけど、もういろいろ考えるのが面倒でなんとなく目を閉じてみる。


だけど後ろからの雪男と勝呂の笑い声が耳に残って、覚醒している頭はそう簡単に眠りについてはくれなかった。




(なんなんだよ…へらへらしやがって…。俺には殆ど笑わないくせに…)




誰にでもニコニコすんなよ、馬鹿野郎。
昔は俺にベッタリで俺がいなきゃ何も出来なかったくせに…。





足音が近づいてくる。顔を上げなくてもそれが誰のものなのか見当はついた。



「あ、燐なら寝ちゃったよ。このプリントが大分難しかったみたい」

「まあ兄の苦手な分野ですからね。…ほら兄さん、何処が分からないんだ?」

「別にもういいよ。眠いし…」



俺は首を横に振る代わりに、プリントに頭を擦りつけた。
すると紙から少しだけ薬品のにおいがして、更に目の前の人を意識してしまう。



「ああああー…」

「ほら燐、ちゃんとやろうよ。雪ちゃん困ってるよ!」

「どうせいつも困ってんだろ…、こんな出来の悪い゛生徒″を持っちまって…」

「…ったく、兄さんたら…。―――仕方ないな」





急に視界が暗くなる。
何事かと思い身体を起こそうとしたが、頭上からふわっと薬品のにおいがして雪男が腰を折って屈んでいるのだと予想出来た。

顔のすぐ近く―――耳の辺りに雪男の静かな息遣いが構えている。少しでも言葉を発したら息がかかりそうだ。





「ねぇ、兄さん…」





ギクッと身体が強張った。熱い息が鼓膜を震わせる。心拍数が一気に上昇した。





「僕は兄さんを一人の生徒としても見てるけど、それだけじゃないんだよ」

「…じゃあ何だよ」

「それを知りたかったらちゃんと僕の言うことを聞いて。自分でちゃんと解いて、それでも分からなかったら教えてあげるから。……ああ、それとも―――――」










「…っ、な…!」



俺は思わず目を見開いた。同時に室内に間抜けな声が響き渡る。


(なななこいつ何言っちゃってんの…!?さらっと言えることか今のは…!っていうか…はあぁぁぁ!?)



「ちょっと静かにしてくれへん?あと少しで答えが出そうなんや!」

「そうですよ奥村君、静かにしてください。皆さんの迷惑です」



そう言って雪男は来た時と同じように靴底を鳴らして、うんうん悩んでいる志摩のところに行ってしまった。
なんであんなことを言った後にあんなに平然としてられるのか…。



あいつって……すげぇな。





俺はシャーペンを握りしめて問題に取りかかった。それを見ていたしえみが口を開く。



「やる気になったんだねっ、さすが雪ちゃん…!でも、一体何言われたの?」

「大丈夫だ何も心配ない。決してやましいこととかじゃないからな!勘違いすんなよ!」

「ニ、ニーッ!」

「ニーちゃんが、燐顔赤いよだって」



そりゃそうだ。あんなこと言われたら嫌でも変なことを想像してしまう。
俺の貧相な想像力なんかじゃリアルにはほど遠いけど…。


(っていうか心拍数戻んなくて逆に集中できねぇよ!どうしてくれんだよ…)















それとも、夜になってから二人だけで勉強する?安心しなよ、問題なんて解かないから。
ただちょっと…身体を使うだけだよ。


END


保健の勉強がしたい雪男と、普通に勉強を教えてほしい燐でした。
しえみ可愛いですニ―ちゃん可愛いです大好きです←

ありがとうございました!


1012/11/10

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あきゅろす。
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