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□果たして効果は
兄さんの頭の出来が悪いことなんて生まれた時から知っていた。知り尽くしていた。

だけどそれは間違いだった。もっと酷かった。





まさか本当にここまで脳が無かったとは―――。







「兄さん…今この瓶の中のもの飲んだ…?」

「ん?あぁ、悪いな!腹減ってたからつい―――」

「…こんの…駄犬がっ!」



僕は殆ど何も詰まっていないであろう兄の頭を、その辺に置いてあった本の角で思いっきり殴った。
鈍い音が狭い寮部屋に響き渡る。突然何が起こったか分からないと言うように目を見開く兄。



「…な、何すんだよ!」

「これは僕が三日間徹夜して作った対悪魔用の薬だよ。それを勝手に飲むなんて…」

「ま、まじ…?俺どうなんの?」

「命に別状はないけど、効果として僕の―――」





ゾッを寒気がして向けられる視線の方を見る。

そこには目を異常に輝かせた兄がいて、いつにもましてニコニコ笑っていた。



(…兄さんにも効くのか。面倒なことになりそうだな…)



「…兄さん?」

「なんだ雪男っ、俺に出来ることがあったら何でも言え!全てこのお兄様が解決してやるぞ」






―――やっぱり。
薬は成功だ。最悪な試し方だけどちゃんと効いているようだし。けど効果が効果なだけに、複雑な気持ちになる。






この薬の効果…それは、






『飲んだ者は僕の言うことを何でも聞く』、というものだった。




実際に兄は今まで見たことがないくらい静かに僕をガン視してくる。
正直、ちょっと気持ち悪い。



「…まぁ僕もこんなところに置いといたのが悪いんだし、お互い様か。効き目は1時間くらいで切れると思うけど…」

「なんかやることねぇのか?お前も意外と暇なんだな」

「誰の所為だと思ってんだよ。…僕風呂に入ってくるから」



もうこうなってしまったからには、時間が来るまで放っておこうと思った。
だけど兄は更に目を輝かせて、



「じゃあ俺が洗ってやる!一緒に入るのなんて小学生以来だな」

「何言ってんの、兄さんは来ないでよ」

「遠慮すんなって。あ、でもその前に飯食わねぇ?雪男の為に頑張って作ったんだぜ!」



(…ただ単に自分が腹減ってるだけだろ)



そう思ったけど面倒なことになりそうだったので黙っておく。
結局僕達は食事を先に済ませることにした。











しかし食べ終わった後でも兄は何処にでもついてきた。
トイレに行こうとする時も、少しだけ外に行こうとする時も、勉強している間もずっと後ろにくっついていた。


(なんかこれって…、言うこと聞くっていうかただのストーカーのような気が…)




…もしかしてとは思うけど、薬を作っている時にどこかで調合を間違えたのかもしれない。
成功だと思っていたけど失敗作だったら…。



「じゃあ効果は『僕のストーカーになる』ってこと…?」





(…………)





(…………まじか)





でもそれなら説明がつく。
兄は全然僕の言うことを聞かないし、そのくせずっと後ろについてくる。ついてくるな、と言ってもだ。


…なにそれ、罰ゲームみたいじゃないか。




「ずっと机に座っててよく飽きないな」

「兄さんこそずっと僕の後ろにくっついててよく飽きないね」

「なんかなー、お前を見てないと駄目な気がすんだよな」

「…っな、なに言ってんだよ…」



さっきから兄は普段なら絶対に言わないようなことを平気で口にする。これも薬の効果だろうか。
もう何が何だかよく分からない。






「―――…なぁ雪男」



突然名前を呼ばれて何、と振り返ると、いつの間にか兄は立ち上がっていて僕を見下ろしていた。
その瞳にはしっかりと僕が映っていて、驚いた表情をしている。



「な、どうしたの兄さん…」

「お前って風呂にも入んないし、ベッドにも行かないんだな」

「…は?」



まるでそうして欲しかったかのように小言を漏らす兄。
椅子の背に手を置いた状態から更に屈んで、顔を近づけてくる。



(え、ちょ、何する気なんだ…っ)



顎を指先で掴まれてくいっと上を向かされた。気付かないうちに顔を逸らしていたらしい。



「雪男…」



再度名前を呼ばれて心臓が大きく跳ねる。
しかしそのしっとりとしていて静かな口調があまりにも耳触りで、金縛りが完全に解けた。



「…って、何すんだこの馬鹿兄が!」



僕は兄の額に思いっきり頭突きをして、怒鳴りつけた。
その衝撃で床に倒れた兄は、いつかと同じように何が起こったか分からないといった表情で目を見開いている。
どうやら効き目が切れたらしい。




―――僕の気も知らないで…、どれだけドキドキしたか分かってんのか…。




僕は煩い心臓を無理矢理黙らせようと、唇を噛みしめた。













(ちぇ、もう少しだったのになー…)


まさかあそこで頭突きがくるとは思わなかった。しかも強烈。
今更だけど少し無理があったかなー、と反省する。


(薬の所為にすれば何しても許してくれると思ったのに…)




でも本当は飲んでないなんて言ったら今度こそ撃たれると思ったから、あいつには秘密にしておくことにした。


END


薬の効果だと思わせて雪男に甘えまくろう!という燐の作戦でした。一応成功です(笑)
雪男が少しだけ酷い子になってしまいました。
というか雪燐じゃなくて燐雪でしたね…!

ありがとうございました!


1012/11/3

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あきゅろす。
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