□たまには
兄さんが風邪をひいた。
多分毎日風呂上りにパンツ一枚で部屋をうろうろしていたのが原因だと思う。
初秋とはいえ、夏に比べたら大分気温が低くなったし特に夜は冷える。
(だからあれだけ服を着ろって言ったのに…)
今日はずっと兄さんの看病で大事な休みが潰れそうな気がする。
「馬鹿は風邪ひかないっていう言葉があったよね」
「うるせー…、それが病人に対する態度かぁ…。つか俺は馬鹿だけどそこまで馬鹿じゃねーぞ…」
(…いや、馬鹿でしょ。)
悪魔の子供なのにサタンを倒すとか、僕を追い越すとか、そんなことを言う前に兄さんはもっと自分の立場を理解した方がいいと思う。
その為にはまず自分が馬鹿だってことを認めなきゃ。
僕は兄さんの額に乗っていたタオルを退けて、代わりに自分の手を当てた。
全く熱が下がっていないらしく掌には高温が伝わった。
するとベッドに寝ている兄さんが突然笑って、
「へへ、お前の手冷たくて気持ちいい」
「そう?普通だと思うけど」
「…なんかさー、小さい頃もあったよな。昔から雪男は俺の看病上手いよな」
「よく怪我して帰ってきてたからね。嫌でも上手くなるよ」
―――多分あの頃からだ。僕が兄を守りたいと思うようになったのは。
小さい頃は泣き虫でいつも守ってもらっていた。自己表現もろくに出来なくて、おどおどしているだけだった毎日。
僕はそんな自分が嫌いで、だから自由で強い兄や父さんに憧れていた。更にいえば、尊敬していた。
それは今も変わらない。これからもずっと変わらないと思う。
『いってぇー!雪男手当しろー』
『だっ、大丈夫…!?また喧嘩してきたの?』
『俺は強いから平気だぞ!まぁ痛いけど…』
『あの…っ僕、大きくなったらお医者さんになるんだ…!そしたらもっと上手に手当てしてあげるねっ』
果たして僕は今その約束に近づけているだろうか。
医工騎士の称号を持っていても、兄は祓魔師についてよく分かっていないからあまり意味が無い気がする。
(まだまだだよね…。もっと頑張らないと―――)
「懐かしいな…、お前はどんどん夢に近づいてて、兄ちゃん羨ましいわ…」
「え…?」
「お前のそういう真っ直ぐなところ、…好きだぜ」
―――吃驚した。
考えていたことを見破られたのかと思った。でもすごい偶然。
兄は何も考えていないように見えて、実はいろいろ思考を巡らせているのかもしれない。もしそうなら、その冷静さを実戦で活用してほしいけど。
(―――あれ、っていうか今…)
…なんか、恥ずかしい言葉も一緒に聞いた気がする…。
どさくさに紛れて告白…?されたような…。
(ち、違うだろ…。そういう意味じゃないだろうし…。僕って自意識過剰な部分があったのか…)
心なしか顔が熱い気がする。兄の風邪がうつったのかな。多分、きっとそうだ。
別に嬉しいとか思っていない。僕もある意味兄が好きだし、今の発言もそれと同じようなものだろう。
「…兄さん?」
呼んでみたけど返事はなくて、気持ち良さそうに寝ている兄が目に映った。
無防備で安心しきったその寝顔を見ていると、僅かに良心を擽られる感じがする。
「…襲ってやろうか」
僕は小さく呟いて、額に短いキスを落とした。
たまには兄に付きっきりの休日もいいかもしれないと思っている自分がいた。
END
初青エクです!
青エク大好きです特に雪燐とメフィストが好きです。
こちらの方も積極的に更新していこうと思うので、よろしくおねがいします。
ありがとうございました!
2012/10/28
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