□春、再会。
※並高
四月、桜が校舎を桃一色に染める頃。
並盛高校に入学した俺は移動教室の途中、窓の外の光景に思わず足を止めた。
「どうしたんすか、10代目」
「なんか見えんのか?」
共に入学した獄寺君と山本もその光景に目を向ける。
途端にげぇ、と怪訝な声を漏らす獄寺君とおぉ、と瞳を輝かせる山本。
俺はと言うと、その姿にうっとりと見入ってしまい、嬉しさと寂しさを同時に持ち合わせていた。
「あいつら、荒れてるって有名な三年の不良だろ。それがあんなザマに…」
「雲雀に捕まった時点で終わりなのな。知ってるか?雲雀のやつ、この学校でも風紀委員長らしいぜ」
「まじかよ……そういえば、この学校広すぎてまだあいつに会ってねぇな」
微動だにしないガタイの良い三年生の横に凛と立つ雲雀さんは、最後に倒れている一人の腹を蹴り、校舎の影へと消えて行った。
俺達も再び歩き出す。俺の頭の中は雲雀さんでいっぱいだった。本当に同じ高校に通っているのだと実感する。
(一年ぶりに……やっと会えた……)
雲雀さんが中学を卒業してからも、俺の片想いは色褪せることなく、寧ろ更に雲雀さんを想う気持ちが強くなっていた。
「ああああ…どこ行っちゃったんだろ……もう最悪だよ…」
ぐしゃぐしゃと髪を掻き回す。放課後、俺は広すぎる校舎を彷徨っていた。いわゆる迷子である。
獄寺君達と探検していたのだが、ちょっと目を離した隙に二人は忽然と姿を消してしまったのだ。
「もう帰っちゃおうかな…とりあえず教室に戻って―――」
「何してるの、君」
来た道を戻ろうと振り返える。
その瞬間あまりにも見慣れない、それでいて懐かしい光景が目に飛び込んできた。
じわりと目頭が熱くなる。
「……綱吉?」
「あ……ひ、雲雀さん!?な、なんでここに……」
「それはこっちのセリフだよ。こんなところで何してるの」
相変わらずの黒い髪や瞳に、少し驚いた表情。流石に学ランではなくなったが、並高のブレザーもよく似合っている。
それに少し身長が伸びたのか、中学の頃よりも目線が上になった気がする。
その手には何かが握られていた。
「あの、ひ、久しぶりです。雲雀さんが中学を卒業して以来ですねっ」
「そうだね。一年ぶりくらいかな」
「はい!あの、ブレザーもよく似合ってます」
「君のはぶかぶかだね。身長も伸びてないのに」
「これから伸びる予定なんですよ!成長期ですし」
「ふぅん…そうは見えないけど」
変に緊張する。まさか会って話せるなんて思ってもいなかった。高校では眺めるだけで十分だと思っていた。
なんだかもう嬉しすぎて泣きたくなってくる。
(どうしよう…何話せばいいんだろ…突然すぎて心の準備が!)
「で?何してたの?」
ふわりと黒い髪が揺れる。
「あ、獄寺君と山本を探してるんです。はぐれちゃったみたいで」
「相変わらずどんくさいね」
「すみません……雲雀さんは?」
「僕は、君に会いに行くつもりだったんだけど」
その必要がなくなったね。
予想外の返答にぽかんと口を開ける。一瞬何を言われたのか分からなかった。
しかし聞き返す暇もなく、雲雀さんは俺に詰め寄る。
手首を掴まれ掌にチャリ、と乾いた音を立てて銀色の鍵が置かれた。雲雀さんが握っていたもの。体温が伝わる。
「合格祝い。応接室の鍵だよ。また中学の頃みたいに掃除しに来てよ」
じゃあね。
頭にポンと手を置かれ雲雀さんとすれ違う。
遅咲きの桜は今が満開の時期。窓の外では桜が風に吹かれ、花弁を散らしている。
俺は遠くなっていく背中を呼び止めた。
「雲雀さん!俺……きっ、期待しちゃってもいいんですか……っ!」
その声が二人きりの廊下に響き渡る。俺は真っ赤になって俯いた。
こんな告白紛いな発言、他の誰かに聞かれたらもう学校になんて来れたもんじゃない。
(ていうか何言ってんの俺!馬鹿じゃないのか!こんな恥ずかしいこと…うわああああ!)
「……いいんじゃない?」
「え?」
「期待、しててよ。綱吉」
優しく微笑みながらそう言う雲雀さん。
嗚呼、これは夢なのか。俺の都合のいいようにつくられた夢の世界なのか。
俺は泣きそうになるのを堪えながら、受け取った鍵を大事に握りしめた。
「綱吉、入学おめでとう」
「ありがとうございます!雲雀さん!」
これが、一年間待ち続けた好きな人との再開で、高校生活の始まりだった。
END
ヒバツナ久々でキャラがブレブレですが…(汗
中学の頃ツナは雲雀さんが好きだったけど告白出来ないまま雲雀さんは卒業してしまい、一年経って再会して実は雲雀さんもツナが好きだった…的な話のつもりです。
私の住んでる地域では4月上旬に桜が満開になるので、腑に落ちない部分もあると思いますが…
入学、入社される皆様おめでとうございます!
ありがとうございました!
2013/4/1
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