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□The white world
ふわふわ、ふわふわ…そんな擬音語が似合う細やかで白い雪。久しぶりに訪れた並中の屋上には僅かながら雪が積もっていた。
今更ながらマフラーも巻かず薄着で来たことに後悔の念を抱く。雪と同様、深く吐いた溜息は白く染まり空気と混じり消えていった。



「あ゛ーさみぃ……ていうかいないじゃん…」



俺はフェンスに指を絡め、その斜め先にある個室に目をやった。
ちょうどこの位置から見えるそこには、委員会で使うにはあまりにも贅沢過ぎるソファーと、まるで社長が座るようなオフィスチェアが置かれている。多分副委員長に頼んで手配したのだろう。
しかしいつもそこに座っている筈の人物が今はいなく、応接室は空だった。



「トイレとか?まぁ待ってれば戻ってくるか」

「何してるの」

「雲雀さんが戻ってくるのを待ってるんです……ってぇ、はいっ!?」



不意に聞こえた質問に何も考えず返答してしまった。本当に何も考えいなかった。
それにこの声はよく知っている。よく通る少し低めの声は、聞き間違えることなんてそうそうない…少なくとも俺は絶対ありえない人のもの。
ゆっくりと振り向くとすぐ後ろにはまぁこれもよく知っている容姿と学ラン……。



「雲雀さん…」

「僕がなんだって?」

「いえ!何でもないんです!すいません忘れて下さい…!」

「…まぁどうでもいいけど」

「すいません……あの、何でここにいるんですか…?」



マフラーを軽く巻いただけの雲雀さんの格好は、俺とそれほど変わらない。しかし身体のつくりが根本的に違う所為か、寒さに震えている様子は全くなかった。
もしかしたらこの人の周りだけ気温が高いんじゃないか?と思うほど若干息が白いこと以外はいつも通りのクールなオーラ。

(ああ、もう最悪…絶対変に思われたよ…)

俺は肩を窄めて身を小さくした。と同時に雲雀さんが口を開く。



「別に……君に用事があって」

「へ…?」



予想外の言葉に思わず間抜けな声が上がる。

何、この雰囲気。指先の感覚が曖昧になってきた。



「よくここから僕のこと見てたでしょ、物欲しそうな顔して」

「!、なっなんで…」

「あんな頻繁に見られてたら気付かない方がおかしいよ。今日もそのつもりで来たんだろ?」



そう言って雲雀さんは自分のマフラーを外し俺の首に巻いた。ふわりと香る雲雀さんの匂いに胸の奥が締め付けられる感覚。
いつの間にか完全に冷え切っていた身体は突然与えられた温かさに、反射的にぴくりと揺れた。



「雲雀さん…あの…」

「僕に、言うことがあるでしょう?」



見下ろしてくる視線がいつもより優しげなのは気のせいだろうか。ほんのり色付いている頬は寒さのせいだろうか。
分からない。俺はおずおずと雲雀さんを見上げ、たどたどしくマフラーに手をやった。
赤い耳や鼻を覆うように巻かれたそれは、いつもこの人がつけていたもの。温かいぬくもり。俺は深く息を吸い込んだ。






ふわふわ、ふわふわ…細やかで白い雪が俺達を包み込む。
真っ白な頭の中、消え入りそうなほど小さく呟いた告白。
何もかも白で埋め尽くされた今の俺には、雲雀さんの赤く染まった頬がひときわ美しく見えた。


END


白い話が書きたかっただけです。ただただ白くしたかった…
こういった話があまり書けないまま冬が終わってしまいそうで少し残念です…

ありがとうございました!


2013/2/1

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