□努力は報われる?
「ど…どうですか…?」
「…………普通」
そう言って雲雀さんは顔を歪ませた。
普通と評価しているけれど、本当はものすごく不味いのだろう。現に箸が止まっている。微動だにしない。
「あの、無理して食べなくてもいいですよ?後でお腹下したらやばいですし…」
「…………だから普通だってば」
(だから顔が歪んでますって!もう素直に不味いって言っちゃってくださいよ!)
俺は心の中で叫んで、机の上の得体の知れない物体に目を向けた。
それは予定ではハンバーグになる筈だったもので、雲雀さんが食べたいとリクエストした筈のものだった。
キッチンには鼻を突く臭いが充満していて気分が悪い。どこで作り方を間違えたらこんな奇妙な色になるのだろうか。
それだけ俺が雲雀さんの為に作ったハンバーグらしきものは、多くの疑問に包まれていた。
「ご、ごめんなさい…俺料理とか殆どしたことなくて…。今日に限って母さんもいないし…」
「なんで謝るの。今は…あまりお腹が空いてないだけだよ」
「それってつまりもう食べたくないってことですよね!?本当にごめんなさい…こんな不味いもの作っちゃって…。っていうか俺、最初に無理だって言ったんですけど…」
「きっと遭難して食べるものがなかったら美味しく頂くよ。今は…遭難してないから」
「だからすいませんってば!」
俺は雲雀さんから箸と皿を取り上げた。代わりにコップに入った水を差し出す。
それを雲雀さんは手に取ったかと思うと一瞬で飲み干して、全部食べるから返してと服の裾を引っ張った。
「もういいですよっ。どうせ俺は何やってもダメツナだし…」
雲雀さんが俺の作ったものを食べようとしてくれることは嬉しい。でもこんな筈じゃなかった。
もっと食欲をそそる良い香りがして、綺麗に盛り合わせて、笑って美味しいって言ってほしかった。
密かに一人で取り組んでいた練習は、何の意味もなかったようだ。全く上達する気配がない。
優しい雲雀さんは不味いとか言わなかったけど、美味しいとはかけ離れた評価でしかなかったし…なんかもう泣きたくなってくる。
「…ちょっと虐めすぎたかな。ねぇ、綱吉」
「…何ですか…」
俺はムスッとした顔で振り向いた。
すると背後にはいつの間に席を立ったのか、雲雀さんが俺を覆うように被さってきた。反射的に目を見開く。
「嬉しかったよ、僕の為に一生懸命になってくれて。練習もしてたんでしょ?」
「な…っなんで知って…」
「君のことなら何でも知ってるよ。どれだけ僕が君だけを見てきたと思ってるの」
馬鹿だね、本当に可愛いんだから。
その笑顔と言葉に、ぼんやりしていた意識が覚醒して羞恥が身体中を駆け巡った。
(ば、ばれてたのか…。恥ずかしい…)
努力は無駄ではなかった。練習はちょっとだけ役に立ったと思う。
いつか絶対に美味しいと言わせてやる、と俺は心の中で誓った。
「―――って、何するんですか!」
雲雀さんは顎を指先で持ち上げて、更に顔を近づけてくる。
当然力では敵うわけもなく、後ろにはシンクがあって逃げられない。
「何って、口直し」
「さっき水飲んだじゃないですか!そりゃあ悪かったと思いますけど…っ」
「なんか身体が重いんだよね。毒が回ってるみたいだ。君の料理の所為なんだから、解消するのを手伝うのは当たり前でしょ」
「それって服脱がすのと関係ないですよね!ちょっ…、やだ…っ」
「…じゃあこうしよう。口直しじゃなくて、デザートってことで」
―――多分雲雀さんは最初から、これが目的だったんだと思う…。うん、絶対そうだ。
END
雲雀さんとリボーンが裏でツナ情報の取引をしてたらいいなぁと思います。
こないだコ○スで包み焼きハンバーグを食べてる人を見て浮かんだお約束ネタでした(笑)
ありがとうございました!
2012/12/22
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