■貴方と時間と我慢
※ディノヒバ要素あり
決まったこの時間。4時限目終了のチャイムと共に、俺は弁当を持って応接室に向かう。
ご一緒にと言ってくれた獄寺君や山本の誘いを断って、1週間にたった1度しかないあの人と二人きりの時間を過ごす。
それが俺の唯一の楽しみだった。
「失礼します…っ」
「廊下は走るな。風紀が乱れる」
「ご、ごめんなさい…」
初めは早歩きだった筈の俺の足は、いつの間にか扉越しでも分かるほど足音を響かせていたらしい。
それだけこの時間が待ち遠しかったということだ。なんたって週に一度、40分ほどしかない限られた時間なのだから。
自然と鼓動も足も早まる。
「そこ、座りなよ」
雲雀さんはソファーを指差して座るように促した。
「はい!…あれ、雲雀さん昼食は…?」
「持ってきてない。今日はちょっとこれから用事があって…食べれなさそうだと思ったから」
そう言って再び書類に目線を戻す。
俺はそうですか、と簡単に返事をして俯いた。
(…それって俺がいたら邪魔になるよな…?応接室に来て弁当を食べて帰るだけなんて…)
風紀委員の仕事を手伝えるわけでもなければ、草壁さんのように美味しい紅茶を淹れられるわけでもない。
俺がいたら集中できないと思うし、そんな安易な考えも持たずにスキップするような足取りでやってきた自分が酷く滑稽に思える。
折角楽しみにしていた時間だったけれど、今回は退散した方が良さそうだった。
「あ…じゃあ今日は止めときますね!仕事の邪魔したら悪いですし」
俺はわざと明るく振舞って全く気にしていないふりをした。
今まで何度か居心地が悪い時や気まずいことがあった時は、いつもそうして笑顔を見せてきた。今では無意識にでもそうやって笑っていられる。
「別に、邪魔とか思わないけど。すぐ済む用事だし…このままいたらいいよ」
「誰か来るんですか?だったら尚更…」
「分からない子だね。僕は君と食べたいって言ってるんだけど」
その言葉を聞いて自分の顔が一気に火照るのが分かった。
(う…え、お…落ち着け俺!別にそんな深い意味じゃないだろうし、これは俺の片想いだし…それに、…それに―――)
俺はそこで考え込むのを止めて雲雀さんに視線を向けた。
じっくりと見ながら好きになり始めたのはいつだっただろうなど思いにふける。
たとえ雲雀さんの視線が一生俺に向けられることがなくても、俺は一生雲雀さんを好きでいる自信があった。
報われなくても、結ばれなくても、この時間が俺を支えてくれるたった一つの幸せで、誰にも邪魔されないこの空間がまるで雲雀さんを一人占めしているような感覚にさせてくれた。
「食べないの?」
いきなり声をかけられて慌てて目を逸らす。見惚れていたのがバレたかもしれないと思ったが、その心配はなさそうだった。
「た、食べますよ。…あの、良かったら…今日雲雀さんが好きなハンバーグがあるんですけど…」
「ワオ、じゃあ貰おうかな―――」
―――しかし幸せな時間は突然終わりを告げる。
「恭弥―!悪いな待たせちまって」
(え…?)
扉が開く音と聞き慣れた声がしてゆっくりと振り向く。そこにはボロボロなディーノさんが立っていた。
「ちょっと、遅いよ」
「だからごめんって!ロマーリオがいなくてさ、ここまで来るのに2時間かかったぜ」
「まぁそんなところだろうと思ってたけど」
ディーノさんが謝りながら雲雀さんの頭を撫でた。それを鬱陶しそうに振り払う俺の好きな人。
態度では苛々しているオーラが溢れ出ていたけど、雲雀さんがディーノさんに向ける視線は決してそうではないことを俺は知っていた。
(…ほら、やっぱりそうじゃん…)
今改めて確信した。この人はディーノさんが好きなんだと。
随分前から気付いていた、けどこうして二人を見ていると俺達の間にはなかった特別な雰囲気がそこにはあった。
(でも…この時間は俺だけのものだったのに…)
こんなことを思う俺は最低だ。
あんなにお世話になったディーノさんに対して、雲雀さんに触るなとかお願いだから帰ってくれと思ってる。
雲雀さんもそんな風に笑わないで、そんな甘い視線を向けないで…。
「そうだ!お土産あるんだぜ!ツナも一緒に…」
「っ…俺用事思い出したんで結構です、失礼します」
「綱吉、さっきのちゃんと聞いてた?僕は君と―――」
俺ちゃんと笑えてるかな。泣きそうな顔してないかな。
「実は獄寺君達と食べる約束しちゃってて…無理に断ってきたんで結構気にしてたんですよね。だから獄寺君達と食べます」
「もう行くのか?一つくらい食ってけよ。俺のおすすめの店なんだ」
「貴方は黙ってて。―――ねぇ綱吉、どうして泣きそうな顔してるの?」
「…っ」
俺に気なんかないくせに、ディーノさんのことが好きなくせに、そうやって優しくするからですよ…。
(なんて言えないよ)
「ごめんなさい…邪魔ですよね、…おじゃましました…っ」
「綱吉!」
俺は呼びとめる声を無視して応接室を出た。先程注意されたばかりなのに、全速力で廊下を走る。
そうでもしないと頬が濡れて気持ち悪かった。
(どうしよう俺…最悪すぎるよ…)
今まで何度か居心地が悪い時や気まずいことがあった時は、いつも笑顔を見せてきた。今までは無意識にでもそうやって笑っていられた。
悟られないようにあの二人を見ても我慢してきた。必死に耐えてきた。泣きそうになっても堪えてきた。
だけど、これまで積み重ねてきた我慢は一体何だったのだろう?―――そう思うほど、あの二人はいとも簡単に矢のような現実を突き付ける。
「……それでも、貴方が好きなんです…っ」
震える声で小さく呟いた告白は、これでもかというほど晴れ渡った雲ひとつない大空に消えていった。
END
やっとギャグを抜け出して乙女ツナモード入りました(笑)
実際誰が誰を好きなのかはご想像にお任せします。
半端な終わり方ですみません…
ありがとうございました!
2012/12/6
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