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□2012'ツナ誕
一年に一度の特別な日くらいは、一番大好きな人に祝って貰いたい。そんな俺の小さな野望。

でも生憎、その人は俺の誕生日を知らない。






「あ、あの…っ雲雀さん!」

「どうしたの」


放課後応接室を訪れた俺は、今日こそ言おうと決意して大好きな人の名前を呼んだ。
雲雀さんは目を通していた書類から顔を上げて、何、と聞いてくる。



(今日こそ言うんだ…!1週間後は俺の…っ)



「えっと、その…実は1週間後は、俺の…」

「…10月14日だね。何かあったかな」

「そうその日です!じゅっ…10月14日は―――」

「あぁ、委員会があって片付けないといけない書類があったんだ」






―――は。






「教えてくれてありがとう、綱吉」


勘違いした雲雀さんはふわっと優しく笑った。
向けられた笑顔にドキッと胸が弾んで、俺は無意識のうちに頷いてしまっていた。


「い、いえ…」


やっとの思いで俺が返事をした頃には、雲雀さんは既に机に向かって仕事を始めていた。
少しだけ眉間にしわを寄せて真剣な雲雀さんも好きだけど、さっきみたいな甘い笑顔の方が何倍もドキドキする。

だからこそ10月14日もその大好きな表情で「おめでとう」って言ってほしい。








俺と雲雀さんは、いわゆる仲がいい先輩と後輩ってやつだ。
最初はリボーン繋がりで話をするようになって、いつからか学校でも会った時は言葉を交わすようになって、
そして今ではこうして時々応接室を訪れるようにまで仲好くなった。


初めは鬼の風紀委員長―――なんて呼ばれてる雲雀さんを怖いと思ってたけど、この人を知れば知るほど優しくて温かい人なんだと気付かされる。
相変わらず群れてる人にはトンファーを突きつけてるけど俺にはいつも優しくて、そんな雲雀さんを俺は好きになった。





(でもただの後輩の誕生日知ったって、だから何って感じだよね…)


出来ればおめでとうって言ってほしいよ、でも…


変な気使わせたり迷惑かけたりしたくない。


それに自分から誕生日を教えるなんて「祝って」と言ってるみたいで厚かましいと思うし。



(いや、実際そうなんだけど…ね。難しいなぁ)








俺は今日も諦めてソファーに腰を下ろした。
さっき貰ったチョコのお菓子の封を開けて、それを口に運ぶ。雲雀さんが生徒から没収したものらしい。


「…甘いものは好き?」

「ふぇ?あ、はい!特にチョコとか大好きで…、雲雀さんも食べますか?」

「いい。僕は甘いものが好きじゃないから」

「そ、そうですか。すいません…」


俺は肩を落として小さくなった。

(何余計なこと聞いてんだよ俺!こうして傍に居させてもらってるのに仕事の邪魔してどうすんだ…っ)




心の中で反省してから空になったお菓子の封をゴミ箱に捨てて、鞄から宿題を取りだす。
ノートを広げていざやろうとしたその時―――、









ボキッ









「…あ」





何故かシャーペンが真っ二つに割れた。それもすごく綺麗に。


「…えぇ…っ、お気に入りだったのにぃ…」


多分体育の授業で落とした時に、誰かに踏まれたのだろう。よく見ると足跡が残っている。

(自業自得だけど…!分かってるけどこれすごく書きやすかったのに…!)



「…君って本当に騒がしいね」

「すっ、すいません!もう喋りません!」



いつもより低い声音がおどおどしていた俺の背筋を一瞬で伸ばす。

(うわぁぁぁ雲雀さん絶対怒ってる…。やっぱり怖いよ…)



雲雀さんが席を立ってこちらに歩いてくるのが横目で見えた。
羽織っている学ランが歩くたびに揺れて、生徒を噛み殺している姿が目に浮かぶ。




(俺、咬み殺される…っ)




俺はぎゅっと目を睦って降りかかってくるであろう痛みを待った。




「……っ」



(すぐ終わりますように…!)



「ねぇ」



(軽くで済みますように…!)



「綱吉」



「え…?」








しかしいつまで待っても予想していた痛みが襲ってくることはなかった。



代わりにやってきたのは雲雀さんの整った綺麗な顔と、飲み込まれそうな瞳と、口元を舐められる感覚―――。









ペロッ









(…………)




「…甘い」

「……え…ええぇぇぇ!」

「煩いよ、咬み殺されたいの」

「そうじゃなくて…っ、雲雀さん何して…!」



俺今…雲雀さんに舐められた…!?
え、え、え?何でいきなり…しかも甘いって…。
あ、やば…顔が熱い…。心臓が煩い。頭パンクしそう…。



「何赤くなってるの。口の端にさっきのお菓子がついてたから取ってあげたんだよ」

「へ…?」

「何だと思ったの?」

「あ…、なるほど…。あははは、は。ですよねー!」



(そっか、吃驚した。そうだったんだ)



―――って、納得するわけあるか!
それなら普通に教えてくれればいいのにわざわざ舐め取るとか…っ、人の気も知らないで…!




すると突然グシャグシャと頭を撫でられた。
小さな笑い声も同時に聞こえた。



「続きは当日ね」

「雲雀さん…?」

「これからは気をつけるんだよ」



何かでコツンとおでこを突かれた。
手に取って見るとそれは雲雀さんがいつも使ってるシャーペンで、雲雀さんはそのまま席に戻ってしまった。



「雲雀さん、これ…」

「僕が今まで使ってたやつだけど、君のが壊れちゃったらしいから。あげるよ」

「…いいんですか?」

「いらないの?」

「いえ…っ、すごく嬉しいです!ありがとうございます!」



俺はそのシャーペンを握りしめた。
今まで使ってた雲雀さんの体温が少しだけ残ってて、胸が温かくなる。


(誕生日のことは言えなかったけど、結果オーライ…かな?)









雲雀さんの不器用な優しさが俺は堪らなく嬉しくて



改めてこの人のことが大好きなんだなって実感して



そんないい気分で過ごしていたら1週間後、





誕生日当日に雲雀さんに告白された。おめでとうの言葉と大量のチョコと共に。





俺は今死んでもいいと思うくらい幸せで、いっぱい涙を流して頷いた。



その時交わしたキスは、涙のしょっぱさを忘れるくらい甘いものだった。


END


【数日遅れの2012'ツナ誕!企画】の雲雀恭弥の場合だけ持ってきました。
そのうち企画欄を作ってそちらに移す予定です。
次回誰かの誕生日の時は遅れないようにしたいと思います(笑)

ありがとうございました!


2012/10/20

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