36℃
「もういい加減にして!」
心の底から思った。
盾突くのはやめてほしかった。
敵対なんかまっぴら。
本当は一緒に居たい。
そんな気持ちを、何故伝えられないのだろうか。
「もう……いい加減にしてよ……」
同じ言葉を吐いてしまった。
疲れてもないのに肩で息をするくらい、気持ちは揺れているのだろうか。
「そっちこそ、いい加減にして!」
カロルはそう言って立ち上がった。左肩を押さえて。
「ボクは本当はナンと戦いたくないのに……」
――――
そうだよ。戦いたくない。
お互いを傷付けて痛い思いをして、何になるでもないのに。
どうかしてる。
掟を忘れたのはナンのほうじゃないか。
でも、そんなこと、言う資格はなかった。
「カロルに言われたくない!」
「ボクだってナンに……っ」
いつもこうだ。
肝心な時に何も言えなくなる。
さっきまで何事もないと思っていた左肩は、服が破れて血が流れていた。
そんな痛みに負けた自分が嫌だった。
「何よ、早く言ってみなさいよ」
何故か、すごく悔しかった。
――――
どうしてだろうか。
深い傷を負わせたのだ。
追い打ちをかければいい。
なのに次の一歩が踏み出せない。
そんな感覚は初めてだった。
「は、早く……攻撃してきたら……」
カロルは左肩から手を外し、大剣を持ち直した。
痛みを堪えているか。
それともあれくらいなら耐えられるくらい強くなったのか。
カロルは振りかぶって、地面へと振り下ろした。
緑の紋章が浮かび上がった。
「そう簡単にボクは、負けない」
カロルはゆっくり近付いてくる。
来ないでと言おうとした。
しかし、言えなかった。
「あたしだって……あたしだってカロルと戦いたくない!」
――――
「ボクだって!」
でも、中途半端に戦うのは嫌だ。
だから、ナンが武器を構えるまで待つ。
「でも、もう迷わない。ボクは本気でいくよ」
「カロルのくせに……でも、あたしも逃げない」
ナンがその気になるまで。
さっきまでのボクじゃない。
――――
さっきは戦いたくないって言ったくせに。
でも、カロルの言う通り。
あたしも、逃げない。
カロルに勝ってみせる。
―
――
―――
――――
今頃カロルはどこにいるのだろうか。
次会う時は、もう敵じゃないよね。
――――
今頃ナンはどこにいるのだろうか。
次会ったら、その時は戦わなくても大丈夫だよね。
―その時は、笑っていたい。
end.
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