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「もういい加減にして!」


 心の底から思った。
 盾突くのはやめてほしかった。
 敵対なんかまっぴら。
 本当は一緒に居たい。
 そんな気持ちを、何故伝えられないのだろうか。


「もう……いい加減にしてよ……」


 同じ言葉を吐いてしまった。
 疲れてもないのに肩で息をするくらい、気持ちは揺れているのだろうか。


「そっちこそ、いい加減にして!」


 カロルはそう言って立ち上がった。左肩を押さえて。


「ボクは本当はナンと戦いたくないのに……」




――――




 そうだよ。戦いたくない。
 お互いを傷付けて痛い思いをして、何になるでもないのに。
 どうかしてる。
 掟を忘れたのはナンのほうじゃないか。
 でも、そんなこと、言う資格はなかった。


「カロルに言われたくない!」


「ボクだってナンに……っ」


 いつもこうだ。
 肝心な時に何も言えなくなる。
 さっきまで何事もないと思っていた左肩は、服が破れて血が流れていた。
 そんな痛みに負けた自分が嫌だった。


「何よ、早く言ってみなさいよ」

 何故か、すごく悔しかった。




――――




 どうしてだろうか。
 深い傷を負わせたのだ。
 追い打ちをかければいい。
 なのに次の一歩が踏み出せない。
 そんな感覚は初めてだった。


「は、早く……攻撃してきたら……」


 カロルは左肩から手を外し、大剣を持ち直した。
 痛みを堪えているか。
 それともあれくらいなら耐えられるくらい強くなったのか。
 カロルは振りかぶって、地面へと振り下ろした。
 緑の紋章が浮かび上がった。


「そう簡単にボクは、負けない」

 カロルはゆっくり近付いてくる。
 来ないでと言おうとした。
 しかし、言えなかった。


「あたしだって……あたしだってカロルと戦いたくない!」




――――




「ボクだって!」


 でも、中途半端に戦うのは嫌だ。
 だから、ナンが武器を構えるまで待つ。


「でも、もう迷わない。ボクは本気でいくよ」


「カロルのくせに……でも、あたしも逃げない」


 ナンがその気になるまで。
 さっきまでのボクじゃない。




――――




 さっきは戦いたくないって言ったくせに。
 でも、カロルの言う通り。
 あたしも、逃げない。
 カロルに勝ってみせる。





――
―――
――――




 今頃カロルはどこにいるのだろうか。
 次会う時は、もう敵じゃないよね。




――――




 今頃ナンはどこにいるのだろうか。
 次会ったら、その時は戦わなくても大丈夫だよね。




 ―その時は、笑っていたい。




end.
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