遠き日
「バカだ……ボクって本当のバカだ……」
真夜中の森の中にカロルは居た。少し用があったのだ。しかし、途中で魔物の襲撃に遭って怪我をしてしまった。自分の怪我を治すくらいの力あるが、逆に体力のほうを消耗してしまったため、今は木にもたれ座っている。
手にはガラス玉。どこにでもよくあるガラス玉。ただ、それはカロルにとっては大切なものだった。
「とりあえず……見付かって良かった」
ここで落としたのも、何かの縁なのだろうか、カロルは心の奥に焼き付いた思い出をそっと取り出す。ガラス玉を空にかざしてみると、そこには違う世界が広がっていた。
「……きれいだなぁ……」
カロルが自分の世界へ向かおうとした時、背後からザワザワと物音がした。カロルはそれにすぐ気付き、その場から離れる。
「だ、誰!?」
振り返って大きい声で叫んだ瞬間、カロルの目に飛び込んできたのはあまりにも意外な人物だった。
「ティ、ティソン!」
「こんな所で何をしている」
カロルは口を噤んだ。ティソンはそんなカロルに近寄る。敵でないのはわかっているものの、歩み寄って来る姿には威圧感がある。カロルの表情は知らない間に強張っていた。
「そんなに怖いか」
「え、べ、別に!? もう暗いし帰らなきゃね、じゃあっ……」
カロルは走ろうと足に力を入れたが強い痛みを感じ、そのまま転んでしまった。
そのせいで、手からガラス玉が離れた。ガラス玉はティソンの足元まで転がっていく。
「まだ持ってたのか」
広い上げて見たガラス玉は、とても綺麗だった。傷は入っているが丁寧に扱われているのがよくわかる。
「う、うん……」
ティソンの表情はフードに隠れてよく見えなかったので、カロルはこの無言の間が少々嫌だった。
――――
「うわあぁぁぁん」
それは、カロルが魔狩りの剣に入った頃のこと。途中で仲間達と逸れた上に魔物に襲われ、知らない所まで逃げてしまったことがあった。その頃のカロルには自分の怪我を治す力もなく、恐怖と痛みが重なって心が押し潰されそうになっていた。
「カロル」
その時にカロルを助けに来たのはティソンだった。
「…………」
「……あの、あっ、ありがとう……ございます」
歩けなかったカロルは、ティソンにおんぶをしてもらった。ティソンの背中は意外と温かかった。
「……次からは……気をつけろ」
カロルはもっと怒られると思っていた。あるいはとことん無視をされるものだと思っていた。だが、その時のティソンはいつになく優しかった。
そして、ティソンはカロルにあるものを渡した。
――――
「あ、ありがとう」
「……フン」
結局カロルはティソンにおんぶをしてもらった。
しばらくすると、スヤスヤと寝息が聞こえた。
「…………」
ティソンは淡々と、街へ向かった。
街の入り口にはユーリが居た。
「あんたが探しに行くなんて言うとは思わなかったな」
「たまたま用があっただけだ」
そう言って、ユーリにカロルを返した。
「サンキューな。じゃあ、また……」
「一つカロルに、言っておいてくれないか」
――――
「あ、あれ、ここ……」
「バカロル」
「変な名前で呼ばないでよ!」
カロルが目を覚ますと、そこはベッドの上だった。そしてすぐ、ポケットに手を突っ込む。
「な……ない……」
「これのことか?」
そこには、キラリと光るガラス玉が。カロルはありがとうと言って返してもらおうとしたが、ユーリは返そうとしなかった。
「返す前に、カロルが言うことは!?」
「あ……ごめんなさい……あんな時間に一人で外に出て……」
「それともう一つ…………」
その後、カロルの叫びが街中に響き渡った。
「師匠、昨日どこか行ってましたか?」
ティソンはナンの質問にいや、とだけ言った。
ティソンはカロルの姿を見ていた。明らかに、口だけだった頃とは違っていた。全然泣かなかったし、逃げなかった。でも……。
――あんな声出してたら、まだナンは渡せないな。
ティソンの口元が少しだけ動いた。
end.
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ティソカロに挑戦。
師匠の口調おかしいwww
カロルがはぐれた原因は、前で戦っているメンバーが後ろ(特にカロル)に気付いてなくって、カロルは魔物の蔓に引っ張られて知らない間に消えていたからですよ。インセクトプラント?だっけかわかりませんが、一度養分を吸われていると思われます。
そんなこんなでティソンは優しかったのだろう(笑)
ガラス玉を落としたとわかっていたのは、そこでみんなに見せようとして、落とした……ということにしといてください(苦笑)
あんな声はダメージ受けた時の悲鳴!
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