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Oasis

一歩ずつ、一歩ずつすくむ脚を後ろに下げていくが、脚はがたがた震えてうまく動かない。でもこうしているうちにも奴らと自分の距離は少しずつ縮まっていった。



「震えてるよー。皇子サマ、かわいいねぇ。」


一見小柄に見えた人もやはり男で、少年のような声でそう言った。


「白蘭に売り渡す前に食っちまうのも…悪くねぇな。」
と最初に口を開いたガタイの良い男が品定めをするようにこちらに近づいてきた。



(白蘭…?白蘭の関係者なのか?…だったら、なおさらやばい!)





俺は震えてばかりで動かない足をなんとか動かして逃げようと、今来た道を引き返そうとした。



「だーめ。大人しくつかまてくれたら何も悪いことはしないよ?」
いつのまにか先ほど前にいた少年は後ろに回っていて俺は周りを白づくめの人間に囲まれていた。
いや、正確にいうと、抜け道はあったが、その先には砂漠しかなかった。



今、砂漠にいったら間違いなく…死ぬ。




なんの準備もせずに子供が一人出て生きていけるようなところじゃない。






(こんなことになるんだったら、意地張らずにスパナのとこに帰ったらよかった…!俺はやっぱり、まだ子供なんだ…。)






イヤでも自分に突きつけられた現実を思い出させられる。
自分はまだ庇護が必要な子供でしかない。

それでも、それでも。
背伸びをしてでも大人にならなくてはいけない。




(このまま大人しく捕まってたまるか!)






俺は意を決して、唯一開いていた場所にところを通って、全速力で砂漠へと駆けた。




「おい、待て!」
後ろから野太い声が聞こえたが、待てといわれて待ってやるほどお人好しではない。
もっとも、自分の命を狙うようなやつに待ってるやる義理もなにもないんだけど。





「まぁ、いいさ。どうせ子供だ。砂漠の中そんなに行けやしない。」
そういった少年の声が耳にこびりついた気がした。



『砂漠の中そんなに行けやしない』






それでも、今ここで捕まるよりはましだなと思い、うだる様な熱をもつ砂漠へと踏み入れた。





砂に足をとられて、思うように走れない。
しかもその砂も火傷するかと思うほど熱く、それが服の中に入ってくるだけで、思わず足を止めてしまう。






実際俺の着ている恰好は砂漠を旅するようのものではなかった。
城をでてきたままの恰好であったし、スパナのロボットの中にいれば砂漠に出る必要なんてなかったからだ。






(あぁ。スパナ。ここに来れたのだってスパナの力があったからなのに。俺、そんなことも分かってないのに、あんな酷いことして。)






スパナのことを思い、胸が苦しくなった。
会って間もない俺にあれだけよくしてくれた彼に俺はなんてひどいことをしたのだろうと思った。





(俺のこと心配してるかな。もう愛想つかしてどこかに行ってしまっただろうか)







そう思うと不意に悲しい気持ちになった。せっかく友達になれると思ったのに、俺が潰したんだ。







それでも俺が狙われてるなら、彼を巻き込まなくてよかったとも思う。
あんな優しいひとを俺のせいでこれ以上傷つけたくない。







そう思って、振り返らずにただ、前へと足を進めた。
自分としては大分砂漠の中に入ってきたと思ったが、距離確認のため来た道を見返すと、案外進んでいないことに気づいた。
高低のあるところを砂に足を取られながら、歩くのはただ体力を消耗するだけのようだった。
しかもさっきまで俺は走り通してたのだ。
疲れも一入だった。






はぁ、はぁと息が切れながら、顔に垂れた汗を拭うため立ち留まると後ろから声が聞こえた。





「もう、鬼ごっこは終わりかい、皇子サマ?」
にやにやと笑いながら、汗ひとつもかかず先ほどの集団は俺のすぐ後ろにいた。




「…あ…。」
恐怖で体中がたがた震えはじめる。
そして先ほどとは種類の違う汗が噴き出した。



「興ざめだな。もっと楽しませてくれるとおもったのに。」
そういって少年のような声でしゃべる白づくめの人はフードを取り、二コリと笑った。
少年の声でしゃべる人はやはり少年で、俺と年はそれほど変わりない気がした。
それでも、圧倒的に違う。俺と目の前にいる人間は修羅場を乗り越えた数というか、すべてが違う気がした。




「痛く、しないからね?」
そういってその少年は俺の手を取ろうとした。




ここで、捕まったら全て終わりだ。






雲雀さんが白蘭の手によって孤高の地で戦ってるかもしれないことも、ツナが俺を庇って城から逃がしてくれたことも、スパナが俺と共に砂漠まで来てくれたことも。




全て。







そう思った瞬間、目の前の少年の手を振り払って、キッとにらんだ。
その時目の前の少年は一瞬吃驚した顔をしたが、にやりと不敵に笑った。





「痛くされたいの?」
俺は彼の問に答えることなく、一目散に逃げる。
だが、それがなおさら少年の機嫌を損ねたのか、少年は一人俺の後を追って、逃げる俺の手をすぐさま掴んでそのままねじ伏せた。





「ぐっ…。」
ねじ伏せられ、地面に顔を突っ伏すかたちとなった俺はその拍子に砂を口に含んでしまった。
熱いものが口腔内に入り込み、火傷をしてしまったようで、ヒリヒリと痛んだ。




「捕まえた。」
恍惚とした声で少年は俺の耳元で囁いた。


この少年はネコのようだと思った。
俊敏でしなやかでプライドが高い。
この少年がネコなら俺はさしずめネズミというところなのだろう。




目を開けて少年を見やるとニヤリと捕食者の顔で笑った。

「デカブツの言うとおり、白蘭に渡す前にこっちでひと遊びするのもいいかもね?」

そういって、少年が俺の服に手をかけようとしたとき、さっきまで晴天だった砂漠に霧が立ち込めた。



















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あきゅろす。
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