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Diamond Virgin

「どうして、こんな……」
六道はそう呟きながらやはり、心に浮かぶのはムカムカした気持ちであった。
(昨日、あんなに言ったはずだ。しかもあんなにこっぴどく。それなのに、どうして現れるんだ、彼は。)
六道はすくっと立ち上がり、ぱさっと汗まみれのシャツを脱ぎ、真新しいシャツに替えた。そして、ズボンを脱ぎ、白濁のついた下着を脱いだ。彼はそれをじっと見つめ、思う。
(こんなことになってしまうのは、やはり彼のせいだ)
骸は苛立ちを隠すこともなく、汚物のついた下着をゴミ箱へと棄てた。そしてティッシュを取り出して簡単に拭い、それから真新しい下着に着替え、替えの制服に身を包んだ。
もう、外を見ると昼下がりになっていた。
これほど寝てしまっているとは思っていなかった。六道は素直にそう思った。
すると、ドアの外から馬鹿まるだしの犬の声が聞こえた。

「だーかーらー!あいつ見てっとなんかムカムカすんだびょん!〜〜っこう、胸を掻き毟ってやりたくなんのっ!それなのに、っそれなのに、どして、こんな、気持ちに…なるんだ……?」
犬はどこか苦しそうにそう言った。それを聞いた千種はわざとらしくため息をついてからこういった。
「それは、無自覚なの、それともわざとなの、犬」
「はぁあ!?何いってんだびょん!わかってたら苦労しねーんらってば!」
「ま…ムカムカするのとムラムラするのって文字通り似てるからね」
「はぁ?」
犬の間抜けな顔をみて肩をすくめた千種は意味のわかっていない犬を置いて、その場から消えてしまった。

その会話の一部始終聞いていた六道は今ようやっとすべてのことにピンときた。
(ムカムカしていたのは…全部、全部…)

「僕が彼に欲情していたから…?」

出ていけといった次の日に、彼のあんな姿が夢にでてくるのは、
迷惑だ、といったときの彼の表情が歪んでみえたときに、心が痛んだのは、
彼の笑顔ばかり夢でみるのは、
彼を組み敷いた夢を見るのは、

すべて、すべて、

六道は、気付いた途端、部屋のドアをバタンと開け、猛ダッシュした。その激しい音にびっくりした犬は目を大きく開けて六道の様子を見ていた。だが六道はその視線などすべて無視した。
(僕と彼以外の世界なんてどうだっていい、破滅していいんだ)
六道は昨日通った道を今日も通る。昨日と違うのは、過る風景のスピードと、明るくキラキラした昼の光と、

(僕の気持、だ。)

はっはっと息がきれる。喉がまだ生暖かい夏の空気を吸い込んですこし喉に引っ掛かる感がする。それでも構わない、と思った。それでいいと六道は思った。愛しさや切なさがあふれだして止まらない。
今魂が求めてる。
(ただ君に会いたくて)

速度をゆるめず、走り続けた六道の目に映ったのは、夢でなんどもなんども見た彼の姿。
琥珀色が昼の光に反射してキラキラと煌めく。六道は足を止めてその姿を目に焼き付ける。
(あぁ…夢よりもきれいだ。こんなに鮮明にみえるとは)
瞼ひとつ介さずみる綱吉の姿が奇麗で、思わず六道はほぅと息をついた。
「…むくろ…?ど、した?」
すこしぎこちない様子で綱吉は六道に問う。昨日のことが彼のこころに残っているのだろうか。綱吉はぎくしゃくした表情だ。
六道は彼の問いかけには答えず、そのまま彼のほうに向かって大股で歩き出す。
すたすたと六道が近づくのを見て綱吉は「ひっ」と情けない声をだした。
あぁ、久々に聞くかれの声がこんなにここちいいとは、と六道は思う。
六道は手を伸ばして琥珀色の髪に触れる。綱吉は六道が自分を殴るとでも思っていたのだろうか、身を少しよじった。
だが六道はそんなこと気にもせず、彼の意外に柔らかい髪の毛を梳いたあと、ぐいっと自らの胸に抱き寄せた。
「言葉、はもういいです。 魂でわかって」



『あいしてるんです』








END

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