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Diamond Virgin

「やっばいよ!遅刻しちゃう!」
沢田綱吉は思わず目覚まし時計を見て大声を出した。それはもう8時を示していた。だが彼がどんなに泣き叫んでも、神様に懺悔しても時計の針はもう戻らない。もちろん、この目覚まし時計の針だけ勝手に戻すことはできるであろう。だが、世界中で進んでいる時計を沢田綱吉一人の勝手な理由なんかで5度ほど針を動かすことはできない。
その無情さに綱吉は目覚まし時計を恨めしく見つめ、彼のできる全速力で制服に身を包んだ。
「母さん!今日、ご飯いいや!いってきまーす!」
綱吉はドタドタと階段を転げ落ちるように駆け降り、母親に一言だけ伝えてから運動靴を履き、そのまま速度をつけたまま玄関の扉を開いた。ガチャという音ともに入ってきたのはまだ夏らしい暑さであったが、それには気にも留めず綱吉は全速力で走った。
そんな息子を見た綱吉の母は作っていた朝ごはんをちらっと見てから一言「せっかく作ったのに」とだけぼやいた。

いつもの通学路を急いで駆ける。綱吉は急いでいた。それはもちろん、今日が始業式であることも一つの理由である。始業式の日から遅刻しているようでは、この学期中ずっと遅刻してしまいそうな気がするものだ。だが理由はそれだけじゃない。というより、メインの理由はむしろ別なことなのだ。
「あぁ――――っ!もうっ」
綱吉は大声を出しながら走る。彼の頭の中には『どうしよう』の単語だけがたくさんよぎっていることであろう。
「もう、35分だっ」
半分泣きが入った状態で綱吉は駆ける。必死で駆ける。それはもう100m走なんかで走る時とはもうケタが違うっていうくらいの全速力だ。
それほどまでに彼を急がせる理由とは。
「きょうは、」
綱吉は一段とスピードを上げて、学校までの道を駆けのぼる。
「、今日は、風紀委員の取り締まりの日なんだよ―ッ!!!」
綱吉はもうすっかり誰もいない通学路で心のままに大声で叫んだ。そう、今日は風紀委員による遅刻取り締まりの日なのだ。もちろん、綱吉はそのことを十分わかっていた。というのは、その風紀委員の長でもある風紀委員長直々に「明日、取り締まりの日だから、遅れてこないでね」と言われていたのだから。
(ッやばいやばいやばいやばいやばいッ!!!)
あと3分で、校門に入りきらないと40分の予鈴が鳴ってしまう。あと3分。そうたったの3分しかないのだ。それで綱吉の生死が左右されるといっても過言ではない。
そんな切迫している状態で、綱吉は呼びとめられた。
「―沢田、綱吉」
その地を這うような声に綱吉はびくっとしながら足をとめた。だが、なかなか声のするほうに振り向けない。ぎぎぎっと音がするようにゆっくり綱吉は首を声のほうにむけようとした。しかし、綱吉がそうする前に、その声の持ち主が綱吉の正面までやってきた。
「む、くろ…」
綱吉は声を絞り出してそういった。すると綱吉を呼び止めた張本人である六道は、顔をぐっとしかめた。
「な、に…?」
俺、急いでるんだけど…
そう綱吉が告げると、六道は矢継ぎ早に口を開いた。
「夢に出てくるのはやめてくれますか」
「、は?」
「毎晩、毎晩、あなたが現れてくる。嫌だと思っていても僕の意思関係なく、君が出てくる」
そういって六道はくしゃっと彼の前髪を右手で掴んだ。
それに反して綱吉はクエスチョンマークを飛ばす。まったく意味がわからないのだ。それもそのはず。六道の夢に自分がでてくる。それがどうして自分に関係あるといえるのか。たしかに、自分が夢に出てくる、となれば多少は関係あるのかもしれない。といっても「やめろ」と言われて「わかった」と自分の思い通りになる領域ではない。
しかも、相手は術師だ。それも高度な霧のリングを持つ幻術づかいの。そんな相手の夢に忍び込めるほど自分はすごい人間ではない。綱吉はそう思った。
「ちょっと、さ、落ち着こうよ、ね?」
そういって綱吉は六道の右手に触れようとした。綱吉の幼い右手が六道の手首に触れた瞬間、六道はビクリと体を動かしそれから綱吉の手を振り払った。
「迷惑なんですよッ!もう!二度と出てこないでくれ!うんざりだ!」
激しい打音。それと耳を劈くような大声。綱吉は行き場を失った右手をぼんやり見つめながらそこに立ちつくした。
その様子に一瞬胸のあたりがチクっとしたような気がしたが、それも「ムカムカ」の一環だろうと思い、目の前の情景から目を背けた。

綱吉は去っていく六道の姿を見ながら、少し、ほんの少しだけ胸が締め付けられるような気がした。それがどうしてなのか綱吉には全くわからなかったのだが。
―ンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン
「あぁッ!ち、遅刻っ!!!」
さっきまで抜け落ちていた『遅刻取り締まり』が頭によみがえると、綱吉はまた走り出した。














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あきゅろす。
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