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Diamond Virgin
Diamond Virgin
月明かりが漏れるようにして入ってくる廃墟の中。少し肌寒い晩夏の夜。六道骸は夢に魘されていた。大して暑いわけでもなんでもないのに、彼の額にはじわっと汗がにじみ出ていて、彼の長い前髪がぴったりと張り付いている。苦しそうに眉をひそめたその顔から察するに、きっと悪夢なのだろうと誰しもが思うであろう。しかし実際は、幽霊やお化けなどのオカルトなモノであるわけでもないし、過去のトラウマを掘り起こすような忌々しいモノでもなかった。
「ん、……」
彼は苦しそうな声をあげた。だが彼の見ているものは風がそよぐ綺麗な花畑であった。そよそよと風が吹くたびにたくさんの小さな花が風の吹くさまに合わせて動いた。綺麗な綺麗な世界、であった。
それなのに、六道骸は魘されて、顔を無意識に左右に振っていた。
「あ……、どして、また……」
六道は目をぎゅっときつく閉じたまま、うわ言のように何かを漏らした。彼はまだ夢のなかであった。
「なぜ、きょうも、……」
六道の目に映っているのは、夢で見ているのは、いまだ綺麗な花畑であった。だがそこに唯一変化がある。それは一つの影であった。影は徐々に六道のほうに歩み寄ってくる。それは影らしく、音もなくすーっと近づいてくるのではなく、影自体が一つの生命体のようにトテトテと歩いてくるようであった。
そのアブなかっしい歩み寄り方に、六道はその影は転んでしまうのではないか、と思った。
だが、その影はいつものようにトテトテとした覚束ない歩き方で彼のもとにやってきた。六道はその影が寄ってくると胸がどうも変な感じがした。怖いのではない。気持ち悪いのではない。ただ、妙な感じに囚われるのだ。その妙な感じがどういった感じが六道にはわからないのだから、妙な感じ、と言っているのだが、それは「ムカムカ」しているような感じだった。
「っ、だからッ、なぜ、今日も、」
六道は苦しそうに胸元あたりをシーツごとひっかいた。だが、まだ夢から目を覚ます様子はなかった。
夢の中の影は段々色を持ち始めた。その色は太陽の光を浴びてキラキラと輝いた。六道の視界に映るは琥珀色の髪の毛。そして影はその琥珀色の髪の少年に変わった。琥珀色の少年は六道の下までやってきて、それから、ふにゃっと笑った。また六道は胸のムカムカが止まらない。そして、体全体が熱くなったようなそんな気さえした。そんな六道の気も知らず、少年は薄ピンク色の唇を動かした。
『む く ろ』
その唇の動きを視認したあと、六道はハッと目を覚ました。
彼の着ているシャツは汗でグッショリしていた。六道はぼーっとする頭のまま上体を起こし、一息ついた。
「…またか」
(ここ、ずっと同じ夢を見ている。)
六道はぎゅっと握りこぶしを作った。
(冗談じゃない、冗談じゃない、冗談じゃない!)
六道は唇をきゅっと噛みしめ先ほど作った握りこぶしで力任せに簡易式のベッドをたたいた。するとベッドは生き物がうめくようにギュゥウンっと啼いた。
「僕の夢は、僕のモノだっ!他の誰でもない僕だけのモノなんだッ!」
誰にも邪魔されることのない自己領域内。その中を踏み荒らされている。もちろんそれも土足で。しかも主人の了承なく。
ソレは六道には許し難いことであった。
六道はハァともう一度大きく息を吐いた。そう、彼は意外にいまだ落ち着いていた。それは、この夢の原因、つまり元凶が分かっていたからだ。
(待っていなさい―、)
六道はまだ暗い空を一瞥した後、ボスンっとベッドに頭をつけた。
そして今度はこの空のような真っ暗な夢を見ることを願って目を閉じた。

(―沢田、綱吉…)
元凶である人物の名を心の中で呼びながら。












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