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らぶ・ろまんす
F
「ってな感じだったんですよ!」
応接室の机をバンっと叩く音が聞こえ、その次にすこし高い声が聞こえた。

その様子に雲雀はなんだかデジャブを感じた。
だが、デジャブといいつつ、今度は人が違った。話している内容はおよそ変わりはないけれど、話している人間が違うだけで心境もえらく変わるものだ。


「……楽しかったようだね。」
雲雀は少し残念そうに(というかかなり残念そうに)そう言った。
雲雀としては早々に綱吉の性別が分かって、憎きライバルの初恋をへし折ってやりたいと思っていたのだが、そうはならなかったらしい。
むしろなぜかうまくいっているようだ。
今、目の前のこの子の話を聞いていると。


「可愛くないですか?あんなクールな感じの人が照れたりするんですよ?しかも決めるときはかっこいいし!」
綱吉は目を輝かせてそう言っている。
その様子にいらいらするのは六道の初恋云々のせいではなく、もはや自分の問題であるということは聡い雲雀には気づいていたはずだ。
だが、そんな醜い感情を自分が抱くとは信じ切れないまま、雲雀は自らのイライラを晴らすために綱吉に向ってこう言った。


「まぁ、君に対して彼が初なところ見せたり、かっこいいところを見せたりするのはアイツが君のことを『女』だと思ってるからじゃないの」
そういった瞬間綱吉の顔に笑顔がなくなったのは確かに分かっていた。
だけど、雲雀は喋りつづける自らの舌を止めることなどできやしなかった。

「君まだ言ってないんでしょ?自分が『男』だって。ってことは六道は君が『女』だと思ってるから、そんな風に可愛いところもかっこいいところも見せるんだろうね。早く教えてあげたほうがいいんじゃない?六道のためにも、『君』のためにも」
雲雀はそういったあと少しだけ後悔した。

それは先ほどまで笑顔だった綱吉の顔から笑顔が消えたからであった。
まるでタンポポが急に萎れて枯れてしまったかのように、彼から元気は消え失せていた。
そのことに気づいた雲雀は先ほど言ったことを訂正しようとしたが、それはもう遅かった。
雲雀の「あ…」と言った声は「…そうですね」といった綱吉の声にかき消されてしまったからだ。

「言わないといけないですよね。ほんとのこと」

そういった綱吉の顔は雲雀にはきちんと見ることはできなかった。
なぜなら、綱吉は彼に見られぬように顔を背けたからだ。だが、雲雀には綱吉がどういう顔をしているかは明白だった。

(…綱吉…。)

(まさか…君も本当に…)






雲雀は嫌な予感が頭をよぎるが、必死でそれを打ち消そうとした。

(まさか、ないよね…)



「君が六道を好きなんて…そんなこと…」


口に出した杞憂は静かに音に溶けて行った。











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あきゅろす。
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