らぶ・ろまんす E 「そろそろ出ましょうか?」 綱吉は椅子から腰を浮かし、すっと立ち上がった。六道もそんな綱吉に合わせて立ち上がる。六道は綱吉の所作に目を捕らわれていたので、ガタガタッと騒がしく音を立ててしまった。その音に振り向いた綱吉は六道の顔を見てクスリと笑った。 「な、なんです、か?」 六道は綱吉が自分の顔をみて笑ったことに、戸惑いを隠せず、ことばに詰まりながらそう答える。すると綱吉はすすっと六道の近くまで寄った。 「?、?」 六道は綱吉の行動の意味が分からずただ赤面しうろたえるばかりであったがさらに彼を赤面させるようなことを綱吉はした。 綱吉はすこし背伸びして六道の頬を右手で包む。 この時点で六道の意識は半分くらい飛んでいる。 そして、もう片一方の手の人差し指で六道の口の横をなぞった。 「口の横、ついてたよ。チーズケーキ」 綱吉はそういって笑ったあと、その人差し指ですくったチーズケーキのかけらを口にした。 その瞬間、六道は顔を真赤にしたまま固まった。それはもうまるでポストのように赤く染まったまましばらく直立不動であった。 「……六道さん?六道さん!?ちょっ…えっ!?」 綱吉はすっかり固まってしまった六道の周りをちょろちょろしながら肩をたたいたり声を出したりしてみながらなんとか六道の意識を戻そうとしたものの、彼が意識を取り戻すのには情けないことに10分ほどかかった。 * 「すいません…ご迷惑かけてしまって…」 しゅんとなってうなだれたまま六道は綱吉にそう言った。 対して綱吉は両手を自分の顔の前でぶんぶんと高速で振りながら同じ言葉を繰り返しながら否定する。 「いやいやいやっ!俺がっ、変なことしちゃったから…!家にちっこいのいると、ついやっちゃうんですよ」 「ちっこいの?弟さんとかいらっしゃるんですか?」 六道は顔をぱっと上げて綱吉にそう訊ねる。すると綱吉は顔をようやく上げてくれた六道の顔を見てほっとしたらしく、胸をなでおろした。 「ぁ、いや、俺の弟、とかじゃないんだけど…居候っていうのかな?母さんの親戚なんだけど理由あって今俺の家に住んでるんだ、3人ほど」 「そうなんですか…いいですね。賑やかそうです」 六道は少しさびしそうにそう言った。本当にすこし。注意して見ていても気づかない程度であったが僅かに眉が下がった笑い方をしたから、綱吉は直感的にそう思った。 そして直感した次の瞬間口をついて出てきたのは綱吉でも予想外の言葉であった。 「今度、俺の家おいでよ!」 自分でもいきなり何言ってんだ!とは思ったけど一度口にしてしまったものを後で引き返すことなどそれは綱吉とはいえできなかった。 「へ?」とクエスチョンマークを頭に飛ばす六道に向けて精一杯それらしい言い訳を口から紡ぎはじめた。 「や、俺の家、客くると喜ぶんだよ!母さんとかさ、お客さんが来るとなるとそりゃもう、御馳走つくりはじめてさ。だから…えと、お前が来たら俺も御馳走食べられるし!な?今度来いよな」 (あぁ…っ、もうっ!何言ってんだ!) どひーっと顔から炎を出したくなるほど、真っ赤になりながら綱吉はそう言ったら、六道はふわっと優しく笑った。 「…ありがとうございます…、つなさん」 その笑顔の綺麗さに綱吉はさらに赤面し、狼狽してそのままわたわたと一人歩こうとしたが、さすがというかなんというか、綱吉は天性のドジっ子っぷりを発揮してしまう。 思いっきり、歩道の縁石につまづいて車道のほうに倒れ込みそうになったのだ。 「わわっっ!!!」 このままではたださえ低い鼻がさらに低くなるほど、顔面をアスファルトという硬い平面にぶつけてしまうところでぐいっと彼の華奢な体は後ろに引っ張られた。 「…へ?」 ぽすっと音がした。 その次にぬくもりがじわーっと背中から体全体に広がった。 「っは〜〜〜びっくりしましたよ…きちんと前向いて歩きなさい」 耳元で重低音が聞こえる。息がはぁっとかかる。 綱吉はゆっくりと顔を後ろに向ける。 すると、そこにはほっとした顔の六道がいた。 「はぁ…今寿命が縮みましたよ…つなさん。怪我ありませんか」 息遣いの荒さは、どれだけ焦っていたかを表す証拠で、少し汗ばんだ額と掌もどれだけ心配してくれたかを示すもので。 そして綱吉を見る表情が心配を含んでいて、その表情があまりにもかっこよくて。 綱吉は目を離すことができなかった。 「つなさん…大丈夫ですか?」 「ハ、ハイっ!だいじょ、ぶですっ!」 綱吉は預けっきりになっていた背中をバッと起こしてそれから六道に何度も頭を下げた。 (なんだろ…、このきもち……) 数回目の頭を下げた後、綱吉の心にはえもいわれぬ感情が広がっていた。 (どうしよ…顔があつくて、顔あげらんない) . [*前へ][次へ#] |