[携帯モード] [URL送信]

らぶ・ろまんす
J

綱吉は先ほど走ってきた道を、今度はとぼとぼと戻っていた。瞳には涙があふれていたせいか、見える景色は少し歪んで見えた。
どこも行きたいところなんてないのだけれど、ただ、学校の応接室に自分の荷物を置いてきてしまったから。
だから、今来た道をそのまま、何も考えずに戻ることにしたのだ。
しかし応接室に向かうことを思えばだんだん足取りは重くなってきた。

「雲雀さん…」
綱吉は、自分の唇を触りながらそう呟いた。
さっき、自分に口づけて、「好きだ」と言ってくれた人。
真剣な目をして、告白をしてくれた人に対して、自分はひどいことをしてしまったのだという自責の念が今頃になって胸を押し寄せたのだ。

(雲雀さんにもひどいこといっちゃったな…)
(―雲雀さんは…俺のこと、心配していてくれたのに…)
それなのに、自分は雲雀の想いを無下にして、最終的には六道の優しさまで踏みにじってしまったんだ。
綱吉は唇をぎゅっと噛みしめ、その場に立ち止った。
あふれ出てきそうな涙を必死にこらえて、小さくだけどはっきり呟く。


「さいてーだ、俺」

「何が最低なの?雲雀のペットちゃん?」
急に自分の独り言に応答があったので、綱吉は顔をばっと上げて、声の発生源のほうを向き直るとそこには見知らぬ男3名がいた。
だけど、その男たちの身元は分かる。
同じ高校の…先輩だ。

「なんですか」
綱吉は機嫌がもともとそんなにすぐれないことと、「雲雀のペット」扱いをされたことに腹が立ったためつっけんどんに男3名をにらみながらそう言うと、彼らはヒューと口を鳴らしだした。

「かっわいーねぇ、さすが雲雀のお気に入り」
「この前、女装してたよね?」
「あれって雲雀の趣味なの?」
「そうに決まってるだろ!だって、こいつ、そこらの女よりもかわいーしさぁ!」
ガハハという下世話な笑い声と、皮肉じみた発言に綱吉は思いっきり眉根を寄せた。
するとその様子さえも、彼らにとってはツボなようで、またケラケラと笑い始めた。

「なんなんですか、あなたたち。用がないなら、もう失礼します」
綱吉はこの男たちの真意が掴めないからと、これ以上一緒にいてもいらつくだけであると思ったから、そのように言って、離れようとしたところ、そんな綱吉の腕を一人の男がぐっと掴んだ。

「なにするんですか!」
綱吉は掴まれた腕のほうを見てから男の方をみてキッと睨んだ。
「いやぁ、君に少し遊んでもらおうかなあと思って、さ」
そう言うと男の一人は綱吉の腕を掴んだまま自分の方に引き寄せたかとおもうと、片方の手を綱吉の細い腰に回して、彼をがっちりホールドした。

綱吉はその腰に手を回された感触やら、耳にかかる吐息やらなにやらが気持ち悪く思えて、その男の体を突き放そうとしたが、がっちりと抱き込まれているからそんなことは叶わなかった。

「はなせ、よ!」
「だーめ。いまからたっぷり遊んでもらう予定なんだから、ね?」
男はそう言ったと思えば、綱吉の耳に舌をべろりと這わした。その湿っぽい感触と耳に直に聞こえるびちゃびちゃとしたいやらしい水音が綱吉の背筋をゾゾっと震えさせた。

(た、助け…)

そんな時綱吉の脳裏によぎったのは、さっき会ったあの人であった。

『もう関わらないで』
なんて、ひどいことを言ってしまったあの人。
やっぱり、言っておけばよかった。
たとえ、嫌われたとしても、好きになってくれなかったとしても。

「好きだ」って口に出して言えばよかった。

雲雀が自分に言ってくれたように、言えばよかった。
…―もう、言うことはできないかもしれないけど、せめて、今だけ名前を呼ばせて。

綱吉は涙を瞳ににじませながら、精一杯の声で叫んだ。
「っろくどーさんッ!助けて!」





[*前へ][次へ#]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!