風と雨 君が優しすぎるから 「痛っ……」 スクアーロは痛みで目が覚めた。周りは白く、ぼんやりした頭でもここが病室だということがわかる。 「起きたか。」 声のする方に首を捻ると、そこには門外顧問の沢田家光がいた。家光を視界にとらえたスクアーロは凄く嫌そうな顔を家光に向けた。 「処分についてはもう暫くかかる。それより、9代目がお前に面会を求めている。」 「拒否権なんかねぇくせに…。勝手にしろ。」 「わかった。」 スクアーロの答えは最初から家光にはわかっていた。了承する以外、答えようがないことを。 一旦、病室からでた家光は9代目を呼び、了承の有無を伝える。そして再び病室の中に入ってきた。9代目と見知らぬ子供を連れて。 「初めましてだね。」 「………あぁ。」 そっぽを向き返事を返す。 「スクアーロ!!」 いい加減な返事をしたスクアーロを正そうとするが9代目は首を横に振り逆に家光を制する。 「家光、少し席を外しなさい。」 「しかし……。わかりました。」 どうやら9代目の有無いわさぬ目を見て感じ取ったのか、仕方なさそう病室から出ていった。 その後、スクアーロは9代目の方に向き直し、あの男から預かった石を投げてよこした。その石を9代目は拾い上げ、子供に渡した。その時、スクアーロは初めて連れられてきた子供の姿を見た。どうやらその子は男の子らしい。服装からも…だが、紅い髪をショートカットにしていた。そして血のような紅い目はザンザスを彷彿とさせるものだった。 「もう出ていけ。俺の傷に触るのにも気づかねぇのか?」 もう、子供を見ていられなかった。ザンザスが眠ったという現実を目の当たりにさせられたような気がしたからだった。 子供がスッとベッドの上、スクアーロの手の届く範囲に白いハンカチを置いた。使ってくれと言わんばかりに。 『ハンカチ、洗って返してね。バイバイ。』 たったそれだけ言うと逃げるように病室から出ていった。その後ろ姿を愛おしそうに哀しそうに9代目は眺めていた。 「あの子は気づいたんだろうね。自分の母親がもうこの世にいない事を…。そして昨日、彼女が最期に会ったのが君だという事に…。」 「母親…?俺は女になんか「会ってない、と思っているだろうがそれは間違いだよ。」」 昨日を振り返るが女には会った記憶がないスクアーロは黙ってしまう。それを察してか9代目が重い口開く。 「あの石を君に預けた人だよ。」 「!!」 「思い出せたみたいだね。あの子、彼女と髪の毛が同じ色だったね…。」 「あいつ…あいつの名前は……。」 「確か、紗紅夜と言ったよ。」 急に先ほどいた子供の名前を聞くスクアーロ。しかし9代目はそんなスクアーロを不審に思うことなく答えた。なんか考えがあっての事だろうと考えたからだった。 「そうか。(娘じゃないのか…。)」 「邪魔だから私は帰るよ。じゃあね。」 「…………。」 9代目がドアを閉める。その時始めて自分の目から涙が流れていたことに気がついた。ふと、ベッドの上にあった白いハンカチが視界に入る。それを義手じゃない手でぎゅっと握り、胸に寄せ泣いた。バカみたいに小さい子供みたいに声を出して泣いた。その時なんともいえない悲しみがスクアーロを襲っていた。 君が優しすぎるから (けれど幼いあの子の将来は優しくない) お題→最果てを棄てに [*前へ] [戻る] |