拍手連載 可哀想な会長様 覆水欲に帰す 体育祭終了。 「へ?ネコやんねえんじゃないのか?何で?」 驚いて劉は、天音を見つめた。選手賞受賞者の一人となった劉に、天音が言い出したのは、性交渉。 「・・・外部デートとでもいえば良いだろう。出先で、好きにしろ。その代わり、噂で聞いたんだが、俺様の、カラコンや髪を戻すのはなしだ。桂木にも、言え」 劉は、天音のカラコンと染色した髪が、気に入らないから、それの撤回を申し出る気だった。 「・・・なあ、そんなにカラコン必要か?黒髪、黒い目、ぜってえ、似合うぜ」 劉に抱かれても良いぐらい、その条件が飲めない理由が、分からない。 「似合わねえ・・・」 「いや、面良いんだから、似合・・・・」 「似合わねえんだよ!」 天音は叫んだ。らしくもない様子に、さすがの劉も驚く。 「良いから、好きにしろ!一日でいやなら、何回やれば良い?何回でも相手してやる!」 「かいちょー・・・」 激高した天音だったが、劉の驚いた様子に正気づく。気まずげに眼を反らし、唇を噛む。 「頼む・・・。髪と目は弄れない・・・」 そう言って、天音は踵を返した。 「劉ちゃあん、まずいっしょ」 劉に相談を受けた次郎丸は、のほほんと言う。 「何で?」 「う〜〜ん。会長、ファザコンなんだよお」 「はあ?何だ、そりゃ?」 次郎丸の言葉に、意味が分からず呆ける。 「中学の時に、尊敬する父親が死んでえ、もうねえ・・・。ちなみに、これ」 そう言って、パソコン画面に呼び出された写真には、中年の男性が写っていた。海棠の家の当主であった人物の写真は、経済誌などにも載っていた事があるから、入手は簡単である。 「・・・似てね―――」 天音とその男性は、全く似ていなかった。 「で、これ、占い師なんだけど。20年前に死んでる人お」 そこには・・・黒い髪、黒い目の天音がいた。 「・・・なんじゃ、こりゃ」 次郎丸は、驚く劉を見上げた。 「社交界で、大人気だった、カリスマ占い師。宗教の一歩手前じみた、狂信的信者がいてねえ、この人。で、会長の母親も、この人の顧客。で、海棠家では父親は婿養子で、母親の尻に敷かれていたらしいよお」 「浮気か?」 「計算合わないよお。でも、死んでも精子が保存されていたら・・・子供ってできるよねえ」 「・・・おい、シャレになんねえぞ」 「金があれば、なんでもできるってえ。実は・・・別の顧客が、無理心中している。妊娠した妻を、夫が殺して。反対に、夫が顧客の夫婦の妻が、死んだ例もある」 「次郎丸・・・どうやってそんな事・・・」 次郎丸は、ヘラヘラ笑いを引っ込めた。 「俺の、親戚筋が、死んだ妻。旦那から逃げてきた、叔母ちゃんは・・・自殺。腹の中に死人の子供を入れられた。そう言って、ね」 「・・・そんな・・・」 「可笑しいこと考えるのは・・・いっぱいいるんだよ。この死んだ占い師は、顧客に、崇められていた。童貞で、女性経験も男性経験もないまま・・・清らかに死んで、死後に子供が生まれる事を望んだって、噂あるんだよ。それを・・・真面目に成そうとした者がいても・・・ね」 「何で・・・」 「処女受胎じみた、妄想?とにかく可笑しな人間だったみたい。だから・・・会長は、髪染めてるんじゃない?そっくりだからね」 さすがの劉も、言葉を失った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |