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中編
シーン2
 莉子の様子に、宗也は引っ付いていた女を引き剥がし、付いて来ようとする新名も制して、店の奥にある別室に莉子を連れて入った。
 莉子は、蒼ざめた顔のまま宗也を見つめていたが、やがて、唇を一舐めして、口火を切った。
「私、貴方を見た事があるわ」
 宗也は、感情の消えた瞳で、莉子を見る。
「ねえ・・・なんで、新名なの。分かっているんでしょう?父親と瓜二つのあいつを弄んで、復讐しているのかしら?」
「・・・つまり、あんたは、俺が新名の父親に何をされていたか知っている訳だ」
 莉子は、目を反らしたい衝動に耐え、宗也を見据える。
「ええ。ビデオ、撮られているの、知っているわよね。あのビデオ、見付けたのが、私なの。なんでか分からないけれど、混じっちゃったの。私の祖母が新名の母の親戚だったんだけれど、新名の父親と、私の年の離れた兄が小学生時代に同級生だった事があってね、偶然。兄は、写真嫌いだったから、子供の頃のビデオや写真がなくて、結婚式でお嫁さんの希望でスライドショーやろうってなって困ったの。で、親戚で同級生だった新名の父親に頼ったの」
「で、その時、混じったのか、あれが・・・」
「そうよ。家族で手分けして、探したわ。私は大学生だった。手伝ってるうちに、あれを見付けた。びっくりして、叫んじゃったわ。そういうビデオにしては、入ってる声は、新名の父親の声。皆で呆然として・・・夢かと思って・・・けれどね、夢じゃなかった。混じっちゃったせいで、あの事が知れた」
「それで?」
「とにかく、新名の父親、その場であの変態に電話して、確認した。返してくれって・・・、俺の宝物だって・・・。もう、目の前が真っ暗になったわ。警察に届けるって、祖母が宣言したわ。気持ちの悪い言い訳を言う変態の電話を切った瞬間、祖母が倒れたわ。血圧が上がって、血管が切れたの。幸い、細い、部位も良かったせいで、今は、握力が少し弱くなった程度。ともかく、救急車を呼んで、病院に搬送して、大騒ぎよ。で、夜、祖母の携帯を見たの」
 祖母は、興奮すると病状が悪化するからと、安定剤と睡眠薬を投与され、父母も帰って良いと言われたが、もう少しだけ居ると言ったので、兄と莉子だけが家に帰ったのだ。
「着信履歴、全部、変態のだった。祖母の以外、携帯の電源落としていたので、私達に電話した回数は分からない。留守番電話も入れていないの。着信履歴で折り返せば良いし。家電もね、慌てて留守電設定せずに出た。でも、祖母のだけはそのまま置いてあったから・・・。異常だったわ。その日は夜遅かったし、次の日に問答無用で警察か、新名の奥さん、つまりは祖母の遠縁に電話しようってなって・・・けれど・・・それは起きてしまっていた」
 新名の母親は、その日、新名と外食をしていた。父親は、体調不良を訴えたので、来なかった。
「家が燃えたの。火の不始末だって。煙草のね。変態が死んで、家は全焼。新名の母親も倒れて、事件は有耶無耶になった。だって、加害者は死んでるし、被害者の子供達は、探し出されても、何もしてもらえない。証拠は、私の家にある、ビデオのみ。そこに映っていた男の子は、三人」
「三人ね・・・」
「そう、うち二人は、高校生っぽかったし、片割れは、チップはずんで、みたいな事も言っていたし、表情から、ああこれは、同意だ、俗に言う援助交際の男の子版、で形が付いた。ただ、一人の子は、ね・・・。逆算すると、小学校六年生くらい?」
 宗也は、頷いた。
「しかも、怯えていて・・・。これは、可笑しいって誰でも分かったわ」
「新名は、知らないんだな」
「教えてない。当人死んでるし、たぶん自殺だろうし。母親も新名も、弱いから、耐えられないでしょう?でも」
 莉子は、宗也を見据える。
「貴方が望むなら、教えます。あのビデオは、両親に処理されてないけれど、罪は罪。信じようと信じまいと、重ねて告げます。本当は、当人が死んだ時に、告げて被害者を探すべきだったと、私は後悔しているから」

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