中編 世界中の誰よりもきっと 「何の用ですか?」 僕、高村鈴鹿は目の前の生徒会副会長、南禅紫苑(なんぜんしおん)様を睨み据えた。 「僕の親衛隊が、解散した」 ああ、あそこの親衛隊は、穏健派で生徒会のお仕事で大変な副会長様のお役に立ちたいって、コンセプトだったのに、下っ端の暴走で隊長があわや停学になりかけて、それを綺羅が止めたんだよな。僕が、あそこの隊長は良い人だよって言ったから。綺羅の僕への信頼は絶大だから、また何かあった時責任を取らされかねないのに、ね。そんな目にあってまで、親衛隊続けるほど、馬鹿でもないよ。他の隊員達も明日は我が身で競って辞めた。そして、隊長以下何人かは、会長親衛隊に入った。綺羅と僕に恩返しがしたいんだって。元隊長さん、できる人だから助かる。生徒会の仕事は基本、綺羅が1人で処理する。で、間違いがないかの見直し、やっぱり1%ぐらいは、誤字とか計算間違いがあるから、ね。でも元隊長さんは、本当にできる人だから、綺羅の間違いは100%見つけ出しますと豪語してくれて、かなりやり易いと綺羅は喜んでいる。まあ、逆に僕の見直しでは不安だった訳で、失礼しちゃうよね。 「親衛隊なんぞ、いらないけどね。会長は、相も変わらず中身のない、君らと遊んでいるようだが、ね。とりあえず、久遠に何かするのは許さない」 「中身がないのは、貴方様でしょう」 僕は、にっこりと笑う。 「な!セフレの分際で!」 「あは。僕と綺羅は、し・ん・ゆ・うです。中身のない貴方達が、外見とか家柄とかだけで見るって怒ったらしいですけど、綺羅は残念な子だけど中身がおもちゃ箱みたいに楽しい子なんで、僕みたいな親友がいるんです。で、綺羅の為の親衛隊だから、僕が隊長をするんです」 「なにを・・・」 「中身ないでしょう?綺羅以外の生徒会の方々は、仕事をしていない。それなのに、学園は回る。皆言っていますよ、『今年の生徒会は会長が超人、他はカボチャ』ってね。ありがとうございます。綺羅の株はウナギ登り。知ってます?綺羅の働きぶりを子息から聞いた保護者の方々が、同じ条件なら綺羅の処と取引しようって言って下さり出しているの。さすが、綺羅」 副会長様は、唇を噛み締める。 「あ、今お暇なら、生徒会室来ます?綺羅の凄さを見せてやるよ」 僕がにやりと笑うと若干顔色の悪くなった副会長様が、 付いて来た。 生徒会室では、綺羅が仕事をしていた。側に居た親衛隊の数人が、副会長様に気が付いて腰を上げるけれど、僕が手で制した。 綺羅は、気が付かない。常人では有り得ない集中力。ちらりと目をやるだけで書類内容は瞬時に脳に認識され、パソコンに打ち込み、手書きで処理するものは、その都度手が動く。処理済みの書類がプリンターから吐き出されると、元隊長が素早く内容を確認し、すぐに提出の物、とりあえずファイルするものに分ける。 僕は、紅茶を入れて副会長様に渡す。 そして、綺羅の後ろに回ると、温めに入れたそれを綺羅の口元に持っていく。綺羅が飲むと、お菓子もすこし摘まませるが、その間も綺羅の手が休むことはない。紙を束ねたり、資料を綺羅に見せたりしながら、2時間後。生徒会全員分の仕事は、終了した。綺羅の手で、だ。 「終わった・・・」 「凄いです!会長様」 「今日は、絶好調ですね!間違い0です!」 「素敵・・・」 隊員達は、口々に綺羅を誉めそやす。 と、ここで、綺羅は初めて副会長様に気が付いた。 「うん?副会長、何しているんだ?」 「・・・・・、いつも、こんなに」 副会長様は、綺羅をぼんやり見ている。以前は綺羅は生徒会室ではなく持ち帰り仕事をしていたから、化け物ぶりは知らなかったんだろうね。 「なにが、だ?」 「仕事、こんなに」 「ああ、それがどうした?」 綺羅は責めない。綺羅の中では、自分以外の生徒会役員は、仕事をしないものと認識されているから、責めようもない。どうでもいいんだよ、あんた達は綺羅にとってね。 「会長・・・、その・・・」 「?はっきりしろ。今日は、珍しくゆっくりできるんだ。いや、予定してた、会議が、俺様抜きで良くなったんでな、暇になった」 今日の会議は、副会長様の分担の物。それがわかって、副会長様は少し青ざめる。 「大丈夫ですよ。会議は全3回。綺羅の負担減の為に、最終決定の3回目までは委員の方々でやって下さるんです。最近、皆さん協力して下さって」 僕は意地悪く副会長様を見つめる。 「本当、綺羅一人の方が、何でも巧くいって」 「あん?俺様一人じゃないぞ。鈴鹿に隊員達に、委員の皆の協力があってこそだ」 「「「「会長様ぁ」」」」 感動する隊員達。青ざめたままの副会長様の側に寄り、僕は呟く。 「せいぜい、あの転校生をここに、来させないように、ね、ふ・く・か・い・ちょ・う・様」 [*前へ][次へ#] [戻る] |